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怖い「自分のペース」
起業したての頃は、自分1人だけで仕事をすることが多いかもしれない。起業のメリットとして何かのアンケートであったのだが、いろいろ挙げられているメリットの一つに「自分のペースで仕事ができる」というのがあった。確かにそれがあるのは自分を振り返ってみても思うところだが、一方で「自分のペース」がその時々の「気分のムラ」に左右されることには気を付けなければならないと思っている。
特に自分1人で仕事をしていると、確かに職場であり勝ちな同僚や上司、そして部下に向けての「社内調整」がなくなるので、その煩わしい人間関係などを考慮すると随分楽に感じたりもする。しかし、決してそうした調整をまったくしなくて良いというわけにはいかない。むしろ、自分が直接顧客に関わり、金融機関や時には役所関係など、関係先が増える分、対外的には自分一人で完結するように気配りをしなければならないことも多い。
もちろん、「自分のペース」というのが、例えば家族の都合であったりする場合、それを優先させることは可能だから、そういう意味では私も随分楽になったのは事実だ。でも家族の都合を優先させるといっても仕事をおろそかにするということではない。あくまで1日、1週間、1カ月といった期間の中で、やり繰りを自分でつけられるようになったということだ。
少しの差が取り返しのできない差に
注意したいのは、その時々の気分で本来今日すべき仕事を明日に伸ばしたり、1週間に営業で10件回ろうとしていたところを、5件で済ませたりするようなことだ。周囲に誰も注意する人がいないので、何をどうしようがすべて自己責任ということになるのだが、その差の積み重ねは案外思っている以上に大きいことを覚悟しなければならない。
お金に例えてみると、仮に100万円の元手があるとして、今、10%の利息が複利でつくとすると、それは1年後には利息の10万円がついて110万円になり、2年目にはその110万円に対して11万円の利息がつくので121万円になる。つまり、時間が経つほど利息が利息を生み出し、雪だるま式に積みあがっていく。
これを企業の売り上げに当てはめるとどうなるか。仮にA社の売り上げは1年目に20%成長して120%になったとしよう。翌年はさらに20%成長して120%×1.2倍で144%になり、3年目も20%成長すると144%×1.2倍で173%になる。実に3年で2倍近い成長を達成することになる。
思っている以上に必要な努力とパワー
一方で、B社は1年目こそ20%成長して120%になったものの、翌年は経済情勢が悪く10%成長がダウンしてしまった。でも3年目では初年度同様、20%成長を取り戻したとする。これをトータルで見ると、120%×0.9×1.2で約130%になる。
先の20%ずつ確実に成長したA社と比べてどうだろう。A社とB社の差は2年目の差だけだが、結果的に40%強も開いてしまっている。これが複利効果の怖さというものだ。継続して安定的な成長を続けることの大切さを少しは分かっていただけただろうか。
念のため話を続けると、普通、20%下がったら、下がった20%の分だけ次に頑張れば元に戻るはずと思い勝ちだが、そうではないということだ。一度、100%が80%に落ちてしまったら、元の100%に戻すには次に20%ではなく、25%頑張らないと元の100%には戻らない。どうだろう。「今日は気分が乗らないからいいか」「今月はまあ仕方ないから、来月からまた頑張ろう」と努力を先送りしていると、以前のレベルまで売上高を回復するだけでも怠けた以上の多くの努力とパワーが必要になる。
毎日1%ずつでも確実な成長を
東京オリンピック、パラリンピックが終わったところだが、そこに出ていた選手たちを見ても同じようなことを話している。例えばランニングで毎日20㎞を楽にトレーニングしている人が、途中身体の調子が悪いからといって1,2日休んでしまうと、20㎞をまた同じように走れるようになるには、1週間ぐらいかかるそうだ。
企業だって同じこと。売り上げが落ちるのはすぐだが、取り戻すにはその何倍もの努力が必要になる。だからこそ、たとえわずかでも現状を落とすことなく成長をし続けることが大切だとされている。「自分のペース」だからといって、成り行きに任せていては大変なことになるということだ。
同じ20%成長でも、元が100万円の場合と、500万円の場合とでは成長の大きさは変わってくる。また効果を早く出せば出すほど、複利効果はより大きく効いてくる。成長速度を速めたいなら、頑張る時期を後ろではなく、できるだけ前倒しした方が複利の効果を大きく活かせることになる。先ほどお話した「一度落ち込んでしまうと現状回復するだけでも難しい」ということも念頭に置きつつ、もし怠けたり、先送りしたくなったら、後で頑張るより今頑張った方が得だと思い直し、毎日1%ずつでも確実な成長を続けることが大切だろう。