【目次】
判断の積み重ねを高速で回す
元テニスプレーヤーでタレント?の松岡修造氏は、「テニスは決断力がすごく大事。それで(その決断力を養うために)僕はレストランに入る時も、メニューをもらってから3秒で決めるように訓練していた」と言っているそうだ。そして、もし何でもいいと思う時にも、「今日はあえてこのメニューを試してみよう」と新しいものに挑戦することで、自分の判断基準や選び方に間違いがなかったかを確認することも訓練にしていたという。企業の経営者が彼のこの話から学ばなければならないのは、何気ない日常からも、常に意思決定の場としてとらえ直し、その力を鍛えようとする意識だろう。
経営者の毎日は小さな判断の積み重ねだ。今すぐに企業買収の案件の是非を決断しなければならないというような、大きくて派手なものはなかなかないだろうが、卑しくも一つの企業を経営する立場になってみると、毎日の一つ一つの判断ミスが経営に大きなダメージを与えることになる。その決断力を磨く場として日常生活での取り組みも工夫の余地が大いにあるということだ。例えば、先の松岡氏の例にあるように「今日のランチは何を食べようか」と悩んだりしていないだろうか、「今日はどの服を着ていこうか」と悩むのも同じことだ。そういう状況の中で、「何でもいい」という人ではいつまでたっても決断力は磨かれることはない。あえて、「これがいい」と決めるようにすることが大切だ。
日常の中で意思決定を意識的にやる
「どんなランチを食べるのか」「どんな服を着るのか」、そういった日常における意思決定の積み重ねによって、私たちの今の状況、結果が生まれている。同じように、経営者の下す毎日の意思決定が、今日の企業の状況となって現れている。無意識に自分がどういう決断を下すのかという癖を知り、その意思決定のモデル自体を高めていけば、今の状況はもっと良いものに変えることができるはずだ。そして、その意思決定を意識的にやることで、周囲からの見方も変わってくることにいつしか気付くことになるだろう。
例えば、「すぐに決める」「常に自分の意見を先に言う」といった意識で毎日、行動を積み重ねていけば、社内はもちろん、外部の会議でも存在感が高まることにつながる。自然と周囲から「あの人に聞けば…」と意見を求められるようになり、ハイパフォーマーとしての認知も高まる。「社内で経営者の顔色をうかがうような雰囲気が強くなるのでは…」と心配する向きもあるが、それはまた別問題だ。組織としてそうならないように対処しなければならないのは言うまでもない。
「正しいかどうか」より「スピード」
何はともあれ、まず経営者が意思決定に優柔不断であっては、その企業が優れた業績を残せるようになれるはずがない。しかし、優れた意思決定を持てるようになるのは、ある日突然にそうなるのではない。そんな優れた経営者になるために、日頃からハイパフォーマーとしての振る舞いを心掛けなければならない。「そんな重大な意思決定が求められるような場に出くわすことがあまりないから」とよく言われるが、繰り返しになるが、本当に足りないのはそういった「場」ではなく、何気ない日常でもそれを意思決定の場としてとらえる「意識」だ。
意思決定の質は「正しいかどうか」より「スピード」にある。「正しいかどうか」なんて実際にやってみないと分からない。それより、傍で見ていても、同じことを決めるのに締め切りや期限直前になって追い詰められて決める人と、その場その場で瞬間的に決められる人のどちらについていきたいと思うだろうか。少し前の話になるが、ある情報通信会社の社長が「1回だけの意思決定をじっくり時間をかけてできるのであれば間違えることは少ない。でも経営者の置かれている状況はそうではない。日々沢山の意思決定を瞬時に求められる。大切なのは、こうした意思決定の連打の中で、どれだけ決めていけるかどうかだ」と教えられたことがあった。
迷ったらやる!
やるべきことは「悩むこと」ではなく「決めること」だ。ある経営コンサルタントはそのためのコツには3つあると言っている。
一つ目は「迷ったらやる」こと。迷うというのはメリットとデメリットがせめぎ合っているから迷うことになっているのだが、もしそうであっても、万が一失敗したところで挑戦したという誇りと経験したという財産が残る。自らやるという選択をすると、やらされる場合と比べて取り組みに対する責任感や達成意識も数倍変わる。
二つ目は「判断軸を決める」こと。悩むのは自分にとって何が大切なのか、その軸自体が決まっていないからだ。何が大切かの1点に集中するのが、早く決めることにつながる。悩んでいる状況に対して、さらに選択肢を増やしたり、新しい情報を沢山集めても不安は解消されない。
三つ目は「できるかどうかを考えない」こと。「できるかどうか」より「やる価値があるかどうか」で決めるのがポイントだ。できることだけをやっていても、個人でも企業でも成長は望めない。現実は頭で考えた通りに進むことは少なく、常に予想外のことは起きる。気持ちとしてやりたいかどうかで判断していくことが大切と心得るべきだ。