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案外分かっていないのが自身の身の上
起業の際や、起業後も何かにつけて経営戦略を立てたり、見直す機会に迫られるものだが、その取っ掛かりとしてまず求められるのがSWOT分析という手法だ。その名前は聞いたことがある方も多いだろう。企業が限られた資源(ヒト、モノ、カネ、情報)を有効に活用し、適切な事業展開を図っていくため、自社の強み、弱みを的確に把握するとともに、外部の経営環境についても機会と脅威の観点から整理を行うというものだ。しかし、ここまでは知っていても、その企業が目指すべき方向性によって整理する内容も変わったりして、実際にやってみるとなかなかしづらいことも多い。
なかには企業のことは、その起業家自身がもっともよく知っているはずで、改めてSWOT分析をする必要はないと考える方もおられるかもしれないが、事実はむしろ逆だ。人が自分自身のことを必ずしもよく分かっていないように、自己評価というのは過大か過小にぶれやすく、なかなか適正な評価は難しいものだ。このため、外部からのアドバイスを求めることも多くあるのだが、それにしてもまずは自社でSWOT分析に取り掛かってみなければアドバイスも受けにくい。以下に取り組むときの一つの手順を挙げてみるので、今後の取り組みの際の参考にしてもらえれば幸いだ。
まず財務分析から行い、掘り下げる
まず自社の強み、弱みを整理する際、それを客観的に見るためには財務分析からしてみるのがいい。つまり財務分析の中には収益性分析、安全性分析、生産性分析、成長性分析があるが、決算書などを元に、収益性分析なら資本利益率や売上高営業利益率、売上高原価率、売上高販管費率などを計算し、それが経年でどのように変化しているのか、業界平均と比べてどうか、理想とする数字と比べてどうか、などと調べてみるのだ。こうして財務面から整理をして、それを踏まえて非財務面の整理をすることで、結果と原因の関係を意識しやすくなる。
次に財務面の結果を踏まえて内部環境を整理する。例えば、財務面で在庫が多いという弱みがある場合、「製造のリードタイムが長い」「調達リードタイムが長い」「在庫管理が不十分」さらにこれらをブレークダウンすると、「生産計画が不十分」「非加工時間が長い」などといった弱みの存在が考えられ、こうした想定をしたうえで内部環境を見ていくことができる。
外部環境はネットなども使って容易に
外部環境は顧客ニーズや競合先を含む業界の動向、マクロ経済の動向などを指す。「他分野からの参入が増えている」「安価な海外製品の流入が増えている」といったことや、食品業界などでは「若者の甘いもの離れ」などといったこともあるかもしれない。これらはインターネットで調べることもできるので、利用できるところは利用していこう。
ここで把握した事実を機会または脅威に分類するのだが、その多くは企業がどのような強み、弱みを持つかによって、機会か脅威かが変わってくることに注意が必要だ。例えば、「短納期を望むニーズが増加している」ことは、自社のリードタイムが顧客の期待する納期に見合っていて、競合他社と比べても優位に立っているのであればそれは機会と言えるが、逆にリードタイムが長く、競合先にも負けているような状態であれば脅威に映る。このように機会か脅威かは、内部環境の分析をしないと決められないところだ。逆に言えば、企業努力によって弱みを克服することができれば、脅威を機会に変えることもできるわけで、ここにもSWOT分析を行う意味があると言える。
蛇足だが、内部環境と外部環境の分け方に悩むこともあるかもしれない。例えば、自社で保有する特許がもうすぐ切れそうなとき、それを弱みと捉えるのか脅威と捉えるのかは微妙だが、結論から言えばあまり分け方で神経質になることもない。
弱みは強み、強みは弱み
面白いと感じるのは、強みと弱みは通常、相互に関連し合っているということだ。例えば、「ベテランが多い」「サービスに習熟している」という強みは、「従業員が高齢化している」という弱みによるものかもしれない。この場合、弱みを克服するために新規雇用を行おうとすると、技術の継承に向けた取り組みを同時に進めていかないと、強みを弱めることになってしまう。また、「均質な人材がそろっている」というのは、日常的な業務を推進していくうえでは強みと捉えることができるが、外部環境の変化に対応する際には、逆に弱みであると判断することもできる。
最後に注意した方がよいと思うのは、整理する事項をなるべく具体的にした方がよいということだ。例えば、「営業力が弱い」というのと、「社長のトップセールスに依存していて組織的な営業力が弱い」とするのとでは、改善策を考える際に考え易さが大分違ってくる。また、できるだけ強みは多く発見していくのが良い。強みが多くなればなるほど、考えられる事業展開の可能性も大きくなるからだ。また、顧客ニーズの動向は幅広く捉えるようにしていくと良い。あまり現実に引っ張られ過ぎると、現状を脱却するような提案が生まれなくなってくるからだ。