【目次】
いろいろあるリストラ
経営改善の方法に予めどんなものがあるのかを知ることはこれから起業に臨む人にとっても損にはならないだろう。当初描いていた事業計画が実際には思いのほか実現が困難だったということは珍しくないからだ。そんな時、経営改善計画を作成するのだが、これは企業自身が行うリストラと、金融機関による支援の両面からの働きかけがあって達成できる。その中のまずはリストラから、どんなものがあるのかを述べてみよう(参考:「中小企業の経済学」(商工組合中央金庫編・岡室博之監修))。
リストラには事業リストラ、業務リストラ、財務リストラの3つがある。この3つのリストラは企業自身が自助努力によって、収支・財務の改善と資金繰りの安定化のために達成しなければならないもので、経営改善計画のカギとなる部分だ。たとえもう一方の金融機関による支援を得られたとしても、この自助努力がなければ経営改善が実現しないのは当たり前の話となる。
儲からないものを整理する事業リストラ
事業リストラは赤字が出てしまった事業や部門、拠点などを統廃合したり、事業譲渡、M&Aなどの手段を使って処分することを指す。例えば、小売店や飲食店は、ある程度の事業規模になれば複数の店舗を展開したり、ケーキ屋が喫茶店を手掛けるような畑違いの事業に乗り出すこともある。多くの店舗や異なる業態での展開を行うようになると、儲かっている店、いない店、儲かっている業態、そうでない業態が出てくる。提供している商品やサービスの価値が顧客からの支持を受けられていない、店の立地条件が悪い、競合する店が周辺に多くあるなど、さまざまな事情が考えられる。事業リストラではこの事業や部門、それに拠点ごとの採算を見極め、儲からないものを整理していく。
無駄を削ぎ落す業務リストラ
業務リストラは仕入コストや人件費といった経費を見直して、利益が出るようにしていく取り組みを指す。仕入を例に挙げれば、仕入先と仕入価格やその他の仕入条件についての交渉の余地はないのか(中には初めから交渉していない例も多いと聞く)、あるいは仕入先を他に探すことはできないのかなどをチェックする。人件費が多くかかっているようであれば、場合によってはその業務を外部に任せてしまうことまで考えなければならないかもしれない。
無駄な経費、無駄な手続きなどがないかを一つひとつ振り返るには、慣例などにとらわれないためにも、信用のできる外部の者に立ち会ってもらうのも一つの手だろう。そして、経営者のみならず、従業員がいる場合は彼らも含めた全員の意識改革を進めながら取り組んでいくことが必要になる。
資産の効率的な活用を図る財務リストラ
財務リストラでは、自社保有の不動産資産で使用効率の低いものや、在庫の売却を通じて資産の圧縮を行っていく。自社の事務所や店舗などの拠点を自前で用意しているなら、レンタルオフィスを利用するようなことも選択肢として入れるべきだ。事務所内で使っている備品にしても、何でもかんでも自社で用意すれば良いというわけでもあるまい。コピー機や社有車などに代表されるように、最近ではリースで代用した方が便利ということもある。
在庫については、一般的には在庫を圧縮した方が資産の効率的な活用につながるとされている。しかし、むやみやたらと在庫を減らせば良いかというと、BCP(事業継続計画)の観点からはある程度の在庫を持った方が良いという見方もあり、その程度の見極めが必要になる。中には、世間の動きと逆行して、在庫を多く抱えることを強みにしている企業もあるくらいだ。
一方の金融支援には…
経営に改善が必要と分かるのは、自社が実際に資金繰りが厳しくなるといった場面に直面したような時ばかりではない。例えばメインバンクを擁している企業だと、メインバンクからの働きかけも多い。そんな時、普段からの付き合い方によって難易度は異なるだろうが、メインバンクからの金融支援を受けることもできる。金融支援といってもいろいろあるが、経営者の責任やメインバンクなど金融機関の支援負担が軽いものから主なものを順番に挙げてみると、リスケジュール、DDS(資本性借入金)、DES(債務の株式化)、債権放棄がある。
資金繰りに余裕が生まれるリスケジュール
リスケジュールは返済条件の変更、つまり返済期間の延長や借入の金利引き下げのことで、比較的症状の軽い段階で行われる金融支援となる。とはいっても借入金がチャラになるわけではないので、企業にとっての財務面における改善効果はさほど大きくはない。しかし、月々の返済金額や支払利息が減少すれば、資金繰りに余裕が生じ、経営者が本業に専念できる時間を得ることができるようになる。
DDS
DDSは貸出金の返済する順番を他の貸出金より後にすること。劣後性に加えて返済条件の延長、返済方法の変更―例えば月々の返済を期限一括で返済にするなど、金利引き下げなどを併用して、通常の貸出金を資本に近い性格の貸出金に転換するもの。
とはいっても、DDSも借入金であることに変わりはないため、決算書の表面上は財務内容の改善はない。しかし、金融機関から見ればこのDDSを実行することで、査定上は債務超過が圧縮された企業と見なすことが可能になる。またDDSの金利も通常の借入金のものと比べると相当に低い水準になるので、DDSに切り替えることによって企業の金利負担が軽減できる。元金の返済も一括返済に転換すれば一定期間不要となるので、キャッシュフローにも余裕が生まれる。
金融機関が株主として経営に関わるDES
DESは借入債務を株式に転換すること。借入金が株式に転換されるので、決算書では自己資本に組み入れることができ、債務超過の解消効果が期待できる。株式に転換することで返済の義務がなくなり、支払利息の負担もなくなる。
ただし、DESによれば金融機関は資金の貸手としてではなく、株主として企業の経営に入ってくることになる。DES転換後の経営が上手くいけば、金融機関は企業に対して所有株式の買い取りを請求したりする。DESによって当面の財務的な負担は大幅に軽減されるだろうが、将来的な負担からは逃れられないということだ。
最後の手段の債権放棄
金融機関が貸出金の一部を放棄することで、企業は借入金という債務が免除されることになる。企業から見れば財務改善効果が高いが、逆に金融機関からは最も負担が重く、最後の手段とされる。このため金融機関は、債権放棄に当たって経営者の退陣や経営者の私財の提供のような厳格な経営責任の取り方を求めることになる。
企業の経営に問題が生じるような状態になると、実際には企業の自助努力であるリストラと金融機関による支援の両輪が必要になることがほとんだ。問題には早期発見、早期対応が良いのは言うまでもない。そのために日頃から経営への目配せは欠かすことはできない。