【目次】
まずはSWOT分析から
起業しようとする人が自分の起業アイデアで果たして本当にやっていけるのか、あるいは起業したての人が再度事業を見直そうとするときに、どの創業塾に行ったり経営コンサルタントに頼ったりしても、多分真っ先に考えさせられるのが戦略の策定だろう。そしてその際に用いられるのが「SWOT分析」だ。
もう少し正確に話すと、企業の戦略を作成する前にまずはその企業が置かれている環境の分析を行う必要がある。その環境には企業をとりまく内部環境と外部環境がある。SWOT分析はこの2つの環境を分析するのに用いられる。SWOTとは内部環境における強み(S)、弱み(W)、外部環境における機会(O)、脅威(T)のそれぞれの英語の頭文字をとったもの。
強み、弱み、機会、脅威をマトリクスにして考える
内部環境を分析するには自社の強み、弱みを洗い出していく。この時、自社の持つ経営資源、つまり人、モノ、カネ、ノウハウ、ブランドというような切り口で分析すると分かりやすい。例えば、「最先端の技術を持っている」「顧客に信用がある」というのは明らかな強みだ。「資金が限られている」「ブランド認知度がない(低い)」というのは弱みになる。視点としては、生産、マーケティング、購買、物流といった機能別に見ていくことも有効だ。
外部環境の分析では大きく2つの視点がある。1つはマクロの視点。マクロ環境は経済動向や法律・政治的な動向、技術動向など、自社に関係なく存在する環境要因。例えば、原油高や、政府による各種の規制などがマクロ環境に相当する。取り組もうとしている事業がちょうど規制緩和の流れに沿ったものであるなら、機会としては大いに在りとなるだろう。
2つ目のミクロ環境は顧客と競合の大きな2軸がある。これはマクロ環境が自社に関係なく存在していたのに対して、自社に固有の環境要因となる。例えば、「新しい顧客ニーズが出てきた」というのは機会となるが、「競合が増えてきた」というのは脅威になる。
これら強み、弱み、機会、脅威をマトリクスの表にして、強みを機会にぶつければ、積極的に機会を生かしていくための戦略になる。強みを脅威にぶつければ、脅威からの影響を最小限にとどめる戦略となり、弱みを機会にぶつければ、機会を逸しないように弱みを克服する戦略となる。弱みと脅威がぶつかるところでは撤退するのが得策だ。
3C分析も有名
実は現状分析にはSWOT分析以外にもさまざまな分析がある。もう一つ有名なものを取り上げるとすれば「3C分析」がある。これは自社と顧客、競合の3つの視点から分析を行うもの。これもそれぞれの英語の頭文字をとって名付けている。いずれにしても戦略を策定するにはこれらの現状分析がしっかりできていることが前提となる。現状分析の手法がたくさんあるということは、それだけ重要だということを現わしてもいる。
経営資源をVRIO分析で再考する
こうした現状分析に出てくる経営資源についてもう少し見てみる。先にも出てきたように、経営資源にはヒト、モノ、カネといった有形のものだけでなく、技術、知的財産、ノウハウ、ブランド、信用、顧客情報といった無形ものもある。どのような経営資源が競争上優位につながるのかーそれを考えるための手法が「VRIO分析」だ。このVRIOというのも経済的価値(V)、希少性(R)、模倣困難性(I)、組織能力(O)の4つの要件の英語の頭文字をとっている。
経済的価値は、端的に言って「その経営資源が経済価値を生み出すのか」ということだ。外部の経営環境の変化からもたらされる機会や脅威に対して、その経営資源が適応できるのかどうかを問うている。ここで経済的価値があるとされることが、後に続く問いかけの前提となる。
次の希少性―これがあることで一時的な競争優位性はあるとされる。例えば、希少性の中にはユニークな接客対応や業務工程など社内でマニュアル化されたものも含まれる。しかし、このようにマニュアル化されたものだと比較的容易に競合他社に模倣されることが可能でもある。その場合、仮に模倣されると競争優位性を保つことが困難になる。
そして特に重要なのが、次の模倣困難性だ。これはつまり、競合他社が簡単に真似したり入手できないことを指す。日本の中小企業メーカーの職人技に典型的に見られるとされるのが、この模倣困難性だ。この技能は用意に真似できないし、暗黙知はその本人が優位性を自覚していないこともあって、容易には共有できないものになっている。このような技術があれば持続的な競争優位性があることにつながる。
しかし、その職人技や暗黙知にしても、組織的に共有されていなければ、それを持つ職人が退職するだけで企業は競争優位性を失うことになってしまう。そこで、組織能力が問われることになる。つまりその経営資源が組織的に管理されているかどうかである。それができていて、初めて「経営資源は持続的競争優位性を最大化している」ことになる。
千里の道も一歩から
トヨタ自動車や米国のゼネラルエレクトリック社の優れた生産管理手法は、さまざまな本で紹介されたり、研究されたりしているが、同じことを他社がしてもこれらの企業のような生産効率を実現することは困難とされている。なぜなら、これらの手法は何十年もかけて組織的に取り組まれてきたもので、その歴史や経緯によって醸成された組織の文化や哲学は他の会社では根付かないからだとされている。
起業はこうした経営資源をつくるための第一歩。こうしたことを念頭に置いて、一歩一歩の積み重ねで強い企業体質に仕立てていこう。