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企業を取り巻く5つの競争
「男には敷居を跨げば7人の敵がいる」とは昔から言われてきた言葉。社会に出ればたくさんの敵がいることを言ったものだ。これを企業に置き換えると、競合環境の分析に使われている米国の経営学者のマイケル・ポーターが提唱した「5つの競争要因(ファイブフォース)」がある。競争というと通常は業界内の競合他社がすぐに思い浮かぶだろうが、ポーターはそれだけじゃないことを示した。この競争要因とは「既存業者の敵対関係」、「買い手の交渉力」、「売り手の交渉力」、「新規参入の脅威」、「代替品の脅威」の5つを指す。この5つの競争要因を分析することで、自社を取り巻く環境を明確にすることができる。
何はともあれ気になるのが同業他社
まず既存業者の敵対関係についてだが、これは文字通り、業界内の競合他社との競争がどの程度激しいのかを表す。ではどのような時に競争が激しくなるのだろうか。
まず当然のことながら競合他社が多い場合だ。私の住む近所にはコンビニの数以上に美容室、整体、歯科医院があって、最近やけに目立つのがドラッグストアー、スポーツジム、葬儀屋など。それぞれに同じような規模で、少なくとも外見ではまったく差別化できていない。それぞれの業界についてはここで言及しないが、当該業界の成長率が低くシェア争いが起きている場合、固定費が高く価格競争になりがちな業界では競争が激化する傾向にあると言われる。
買い手の交渉力
次に、買い手の交渉力について。これは製品(サービス)の買い手である顧客の力がどれぐらい強いかということ。買い手の力が強いと企業は値引きを要求されるため収益が上がらなくなる。買い手の交渉力が強くなるのは、特に強力な購買力を持った顧客がいる場合だ。
例えば、大型のスーパーマーケットが自社ブランドの商品をいくつかのメーカーに委託して製造する場合は、大型スーパーの購買力が強力なため、製造するメーカーの力は相対的に小さくなる。そうなると、メーカーは大型スーパーからの値下げ圧力によって、安い価格で販売せざるを得なくなる。
売り手の交渉力
次は売り手の交渉力。売り手というのは部品や原材料を仕入れている供給業者(供給業者側からいえば、部品や原材料を提供している)のこと。例えば、売り手側の業界が少数の企業に支配されている場合、つまり寡占業界の場合は、売り手の交渉力が高まり、業界の収益は少なくなる。また、売り手側が独自の技術や製品を持っていると、高い価格を受け入れざるを得なくなるため、その時も業界の収益は少なくなる。
パソコンメーカーはインテルから希少な部品であるCPUを高い価格で購入する必要がある。パソコンメーカーがパソコンを売ることで得た利益は、インテルが多く持っていき、パソコンメーカーにはあまり残らないということになる。このように売り手側が寡占業界で独自性の高い製品の場合、業界の収益は少なくなる。
新規参入の脅威
新規参入の脅威とは、業界に新たな企業が参入してくることを指す。新規参入が相次ぐようなことが起こると、業界内の競争が激しくなるため収益は少なくなってしまう。
新規参入の脅威の程度は、参入障壁がどの程度高いかによる。参入障壁が低い業界では新規参入してくる可能性が高くなる。よって業界内の企業は「参入障壁」を高くして、新規参入を防ごうとする。
参入障壁にはいくつかの要因がある。例えば独自で高度な技術が必要な場合だと簡単に参入することができなくなり、参入障壁が高くなる。大規模な設備投資が必要で、規模の経済性が働く業界の場合も同様だ。
代替品の脅威
最後の代替品の脅威は、ユーザーニーズを満たす既存製品とは別に現れる製品のこと。よく例えられるものの代表に、レコードはCDという代替品の登場によって衰退していった。このような強力な代替品が出てくると、業界の構造が一気に変わる可能性がある。
どの戦略グループに属するか
業界の構造をこのように5つの競争要因で分析することで、既存の競争相手だけでなく、業界全体の構造を明確にすることができる。ポーターはこのように事業が置かれている環境がどのようなところにあるかを分析することが大切だとした。それによって収益性が変わってくるからだ。
そうした中で同じ業界にある企業の中でも、同じような戦略を採用しているグループが出てくる。例えば同じ衣料品業界であっても、低価格を強みとするディスカウントストアと高級志向のブランドショップとでは、採用している戦略が異なる。このそれぞれの戦略グループによって、市場ターゲット、製品、価格、流通、プロモーションなどの方法は異なってくる。先に述べたように、業界に新規参入する時には「参入障壁」があったが、同じ業界であってもこれら戦略グループ間を移動する時には「移動障壁」が存在することになる。
いったん戦略グループが形成されると、この移動障壁のために別の戦略グループに移動するのが難しくなる。このため企業はそこから抜け出すことができずに、同じ戦略グループの中で競争が繰り広げられることになる。
企業を取り巻く5つの競合環境は常に変化する。こうしたことを分かったうえで、自社が今どこにあるのか、どこを目指すのかをしっかり把握しながら事業展開しなければならない。