【目次】
隠れたコストに注意
情報システムを開発する場合、通常はハードやソフトの費用やシステム開発費について予算として計上することになるだろう。これらのコストは分かりやすいが、情報システムを所有するためには、これら以外の隠れたコストも必要だ。その中には、保守やエンドユーザーへの教育にかかる担当部や担当者の人件費、エンドユーザー自身の人件費、システムのアップグレード費などがある。これらの隠れたコストまで含めた総コストが情報システムの導入と維持にかかってくることに注意を払わなければならない。いくら導入費用が安くても、運営費用が高ければ総コストは高くついてしまう。
この総コストを削減する選択肢としてあるのがアウトソーシングやASP、オフショア開発などだ。アウトソーシングは情報システムに関連する業務を外部に委託すること。その目的は、ITに関する人材不足を解消することやコスト削減など。社内の担当者やある部門で行っていた情報システムの運用や保守などを外部に委託するのがアウトソーシングの典型的な例だ。但し、社内に情報システムが分かる人がいなくなると、情報システム戦略の立案などで問題が生じるため、内部と外部の業務を適切に切り分けることが重要になってくる。
増える外部委託
ASPはアプリケーション・サービス・プロバイダの略。インターネット経由で業務アプリケーションを提供する業者やサービスを指す。例えばASPには社員のスケジュール管理などを行うグループウエアなどがある。それを利用する企業は月額のサービス利用料をASPの業者に支払うことで、インターネットでそのグループウエアなどを使用することができる。このASPは情報システムの開発や運用などを自社で行う必要がないことがメリット。最近ではERPパッケージ(企業のさまざまな業務を統合した業務パッケージ)の機能を提供するASPもあり、今後はより普及していくことが見込まれている。
オフショア開発はシステム開発を海外の企業に委託する方法。人件費の安いインドや中国などのアジア諸国に開発を外注する例が増えている。そのメリットは開発コストを削減できることだが、一方で言葉や習慣の違いもあって要求仕様が正確に伝わらなかったり、品質や納期に問題が発生するリスクもある。中小企業がオフショア開発を利用するには、システムを導入する業者(システムインテグレーター)を通じて、海外の業者に開発を委託することが一般的になってくる。この場合、システムインテグレーターが海外の業者を十分に管理できているかどうかがポイントになる。
忘れていけないSLAの重要性
アウトソーシングやオフショア開発など、外部の業者に開発や運用を委託する場合、対象となる業務の範囲や要求する水準などを事前に明確にしておかねば、後々トラブルの原因になりかねない。そのために取り交わすのがSLA(サービス・レベル・アグリメント)と呼ばれる文書だ。SLAは契約前に受託企業と委託企業との間で文書化し、契約書と一緒にして契約を締結するのが普通だ。
政府機関への情報サービスを行う際には、経済産業省が公表している「情報システムに係る政府調達へのSLA導入ガイドライン」に準拠することが求められている。このガイドラインの中には、「技術的な問題などから仕様書作成時にSLAの内容を具体的にできない場合(例:新規システム開発)もあるため、その場合は仕様書にはSLAを別途締結する旨を明記し、SLAを契約書とは独立した文書として締結することも可能である」とされている。
また、サービスレベルが所定の水準と異なった場合の対応としては、「運用上の対応」「財務上の対応」「契約上の対応」の3種類が決められており、それぞれに予め対応方法を決定してSLAに記載することが求められている。例えば、「運用上の対応」としては、サービスレベルが未達成の場合、リソースの増強や代替手段の適用などがあるとされている。
なお、落札方式には「総合評価落札方式」と「最低価格落札方式」があり、特に「最低価格落札方式」の場合にはSLAを仕様書に記載することが必須条件となっている。
金銭だけでは測れない効果
経済産業省はまた、「IT投資価値評価ガイドライン(試行版)」を公表している。これは経営者がIT投資の投資対効果を判断するための指針を表したもの。従来のIT投資ではIT導入による業務コストの削減など、投資対効果が評価しやすかったものが多かったのだが、近年のIT投資は経営戦略と深く関わるものが多くなっている。また、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス:ベンダーが提供するクラウドサーバーにあるソフトウエアをインターネットを経由してユーザーが利用できるサービス)のような従来の導入方法とは異なる手法が増えていることもあって、より複雑になってきたIT投資の評価に求められる要件を示している。
このガイドラインではまず経営課題に対するIT投資の位置づけを明確にするのが重要であり、その上でIT投資の意思決定と評価体制を整えることを示している。IT投資の位置づけとしてはインフラ型投資、業務効率化投資、戦略型投資の3つのタイプに分類することで、評価基準などが設定しやすくなるとしている。
IT投資価値評価では、まず構想・企画段階で事前評価を行い、その上で投資実行後の事後評価を行う。評価項目としては、投資費用に対する効果といった金銭的効果だけでなく、経営戦略との適合性や、ユーザー満足度なども組み込むべきであるとしている。