【目次】
「面倒くさい」では何も始まらない
起業をするとその準備段階から、例えば事務所の開設や税理士らの専門家との間、そして取引先となる相手との間などで契約書を作成する場面が生まれる。それまで私のようにサラリーマンをしてきたものにとって、普通ならなかなかそんな機会がなく、いざその場面になって面倒くさくなることが多い。何より契約書に書かれる言葉は難しく、普段使われないものも多くあってかつ細かな文字で書かれていたりするため、はなから読む気になれない。また、読んでも分からないと思うことも多くある。しかし、経営者としては万が一にも相手から出された契約書の内容を確認せずにそのまま印鑑を押すようなことがあってはならない。
何か問題が起きた時には契約書に書かれたことが重視されるのはもちろん。仮に裁判になった場合、契約書は重要な証拠になる。お互い子供ではないのだから、「読んでいませんでした」では通用しないことを重々わきまえておく必要がある。中には、わざと契約書の中に密かにこちらがこの先不利になるような条件が入っていたり、相手が責任を回避するような文言などが散りばめられていたりすることがある。意味の分からない言葉があった時は、決して恥ずかしいとは思わずに一つひとつの文言には重要な意味があることを分かったうえで、その意味を確かめなければならない。
ひな型をそのまま使っているのでは?
契約書を作成する際、相手から出されたものをそのまま鵜呑みにするのは危険なのはもちろんだが、インターネットなどで検索をすればひな型が容易に手が入るご時世ではあるが、何も考えずにそれらを使うのも良くないと知っておくべきだ。何よりそれがどういう立場で作られたものであるかが不明なためだ。早い話、売買契約の場合に売主の立場で作成する契約書と買い主の立場で作成するものとでは、注意すべきポイントや自己を守るための契約書の条項が違ってくるのは当然だろう。重要な契約を結ぶ際は、やはり弁護士などの専門家に相談した方が良いに越したことはない。
ただ、同じ相談するにしても、自分の立場はどこにあるのか、自分の権利や義務がきちんと契約上の文言で明らかになっているのか、自分が心配しているリスクは何なのか、そのリスクを回避する手段はきちんと用意できているのかなど、押さえるべきポイントをきちんと考えておかねばならない。契約書に自分に不利な文言がある場合は、相手に修正を求めなければならない。決して安易に妥協する必要はない。むしろそこで優柔な態度を見せてしまうと、相手は自分が扱いやすい、どうにでもできる人間であるように思うかもしれない。万一そう思わせてしまった場合の責任は自分にあることを忘れてはいけない。
泣き寝入りは無用
しかし、最終的には相手と自分の力関係で不利な条項を飲まざるを得ない場合もあるかもしれない。また、事業を継続していく上ではリスクがあっても覚悟を持って引き受けざるを得ないこともあるが、そんな場合でもリスクをよく検討した上で、引き受けられないと判断した時は契約自体を断る勇気を持たなければならない。契約するかどうかの話し合いに際しては、友好的な雰囲気で始まることがほとんどだろうが、そんな雰囲気に引っ張られていてはこれから乗り越えなければならないいくつもの試練を乗り越えていくことはできないと心しておくべきだ。もし相手が大企業で、その力の差を持って一方的な取引を強要してきた場合は、全国中小企業振興機関協会の「下請けかけこみ寺」制度を利用すると良い。
法律にも下請法があって、これは昭和31年に制定されたものだが、以降改正を重ねて今に至る法律だ。公正取引委員会や中小企業庁がその遵守に力を入れている。この下請法を受けて、中小企業の利益を守ってくれるのが「下請けかけこみ寺」だ。各都道府県に対応窓口があり、全国統一のフリーダイヤル(0120-418-618)で最寄りの下請けかけこみ寺につないでもらえる。下請けかけこみ寺では必要があれば裁判外紛争解決手続き(ADR)で当事者間の紛争を解決することもできる。裁判と違って非公開のため秘密は守られる上、裁判より軽い負荷で和解が得られる可能性が高い。
あなたの弁護士費用は高い?安い?
弁護士に契約の作成を依頼した場合、弁護士によってその費用は異なる。定型的な契約類型か否か、契約で得られる経済的利益の額がいくらか、特に複雑な事情や特殊な事情があるかどうかでも費用は異なってくる。弁護士の報酬は、「経済的利益、事案の難易、時間と労力、その他の事情に照らして適正かつ妥当なものでなければならない」(日本弁護士連合会の規定より)と定められているだけで、定価が決められているわけではない。とはいうものの、自由化される以前は「日本弁護士連合会報酬等基準」があって、そこに弁護士費用が定められていた。多くの弁護士は今もその時の報酬基準を参考にして決めているようなので、参考までにその一部を紹介する。
【契約締結交渉の着手金及び報酬金】
・経済的利益の額が300万円以下の部分 (着手金)2%、(報酬金)4%
・300万円を超え3000万円以下の部分 (着手金)1%、(報酬金)2%
・3000万円を超え3億円以下の部分 (着手金)0.5%、(報酬金)1%
・3億円を超える部分 (着手金)0.3%、(報酬金)0.6%
最後になったが、一般消費者が取引相手の場合は「消費者契約法」があって、不当な取引の勧誘は契約の「取り消し要因」になったり、契約書の不当条項は「無効」になるので注意が必要だ。これらについての説明はまた別の機会に譲る。