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近年増えていた開業
厚生労働省の「雇用保険事業年報」に基づいて企業の開廃業率の推移を見ると、開業率は2001年以降、緩やかな上昇傾向にあることが分かる。2001年度の開業率は4.4%だったが、2017年度には5.6%に上昇している。但し2018年度はそれが減少し4.4%に戻った。一方、廃業率は1996年以降は増加傾向が続いていたが、2010年以降は一転して減少傾向にある。2018年度は開業率が下がったため開業率と廃業率の差は小さくなってはいるが、それまで2010年以降は開業率が廃業率を上回り、その差は拡大していた。2019年、そして20年と新型コロナの影響がどのような形で現れるか懸念されてはいるが、いずれにせよベースにこうした動きがあったことは知っておいて損はない。
ちなみに、開廃業の状況を業種別に見てみると、開業率、廃業率ともに最も高いのは「宿泊業、飲食サービス業」だ。開業率を高い業種から順番に見てみると、①「宿泊業、飲食サービス業」、②「情報通信業」、③「電気・ガス・熱供給・水道業」となっている。一方、廃業率は高い方から順番に、①「宿泊業、飲食サービス業」、②「生活関連サービス業、娯楽業」、③「小売業」だ。業種別でも新型コロナがどのように影響しているか気になるところだが、廃業はもちろん、中長期的に見れば開業も大いに加速するのではないだろうか。
手軽に始められる個人事業主
ここではまず、起業に際して考えらえる形態にどのようなものがあるのかをまとめて考えてみることにする。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行った「中小企業・小規模事業者における経営者の参入に関する調査」では、特定の組織に属さず自らの持つ技能やスキルを拠り所に個人で活動する「フリーランス」という形態での起業が46.2%を占め、その割合は大きくなっている。
この「フリーランス」や「自営業」といった呼び方もあるが、いわゆる「個人事業主」で始める場合は、何より小資本で手軽に始めることができるのが魅力だ。法人等の組織を設立するわけではないので、開業の手続きもずっと簡単で済む(いらないわけではないので注意)。納税方法も確定申告になる。いわゆる決算業務がないため、経理業務を自分で行う人も多いと聞く。
これらのメリットに対して、当然デメリットも存在する。まず、事業が思うようにいかなかった場合、つまり失敗した場合は全責任を個人が負うことになる。借入金や未払金といった負債はどこまでもその支払い義務を負わなければならない。名刺にも○○株式会社とか××合同会社などの組織形態や、代表取締役社長といった会社法上の規定に関わる表記をすることはできない。そのことを自分は了解していても、取引先などが見た時にどれだけ信用を得られるかということが問題になってくる。
株式会社だけではない法人の形態
そのため個人で事業を始めても、うまく軌道に乗ると法人を設立する「法人成り」を行う人も多い。「法人」とは法律の規定で1人の人格と同じような権利や義務を認められた組織のことだ。「株式会社」とか「NPO法人」といった呼称は法人の種類を表す。以下にその主なものの種類と特徴を挙げてみる。
●株式会社
株式会社を設立するには定款を定め、出資者や取締役などの機関を決定し、設立登記をする必要がある。設立登記をすることで法人格が与えられ、株式会社が成立する
ことになる。設立手続きには発起人が会社設立時に発行する株式のすべてを引き受ける方法と、発起人が一部の株式を引き受け、残りの株式は別の株主を募集して株式を引き受けてもらう方法がある。
つまり設立に際しては1人以上の発起人が必要になる。また、旧商法では設立に際して最低1000万円の資本金を必要とした規制があったが、現在では最低資本金制度は
廃止されている。つまり資本金が1円でも制度上は可能だ。
●合名会社
無限責任社員だけから成る会社。社員は出資者であると同時に原則として会社の業務を執行する業務執行社員となる。
出資は財産だけでなく労務・信用による出資が認められている。
●合資会社
無限責任社員と有限責任社員から成る会社。このため最低でも社員は2人以上で構成される。
合名会社に有限責任社員を加入させたり、合名会社の無限責任社員の一部を有限責任社員に変更すると合資会社になる。
●合同会社(LLC)
有限責任社員だけから成る会社。株式会社より定款による自治の範囲が広く、設立などの手続きが簡単に済む。計算書類の公告義務や配当制限などの規制が株式会社よりも少ないため、少人数のベンチャー企業などに向いているとされる。
●有限責任事業組合(LLP)
個人または法人が出資して共同で事業を行う。法人ではないが、有限責任の出資者による自治を行う点などは合同会社と同じ。
最低でも組合員は2人以上が必要。法人ではないため課税は組合員に直接される。
●NPO法人(特定非営利活動法人)
特定非営利活動促進法に基づき設立される法人。理事3名以上、監事1名以上を置かねばならず、役員のうち報酬を受ける者の数は役員総数の3分の1以下でなければならない。
※有限会社
かつて「有限会社」という種類があり小規模の会社に利用されてきたが、2006年5月の新会社法施行に伴い有限会社法が廃止され、新たな有限会社は設立できない。但し、従来からの有限会社は「特例有限会社」として、決算公告が不要などの従来の有限会社法が適用されて残っている。
事業に会った形態を選ぶことが大切
これら法人を作ることで、一般には社会的な信用を得られるほか、(会社の形態にもよるが)有限責任で済むというメリットのほか、法人税の方が税率が低いということもある。個人事業主で始めると赤字の場合は課税されないが、所得税は所得が多くなるほど税率が高くなる。それが法人だと赤字でも納税はしなければならないが、売上が高くなるにつれて、所得税より税率は低くなる。一般には800万円を超えると法人の方が税金が安くなるとされているので、詳しくは税理士などに確かめるとよい。また、個人事業主は個人の資金や借金で事業を始めることになるが、法人にすれば他からの出資金を募ることもできる。共同経営にも向いているということだ。いずれにせよ、それぞれのメリット、デメリットを勘案して、自分が行おうとする事業に適した形態を選ぶ必要がある。