【目次】
雰囲気がカギを握る
あまり思い出したくないことなのだが、私はこれまでに2度転職をしている。2度しているということは3つの会社を渡り歩いたということで、今、自分が起業した会社を含めると4社目ということになる。大体は納得のいく経験を積むことができたと思っているのだが、問題は2社目であったコンサルタント会社での経験だ。何しろ、それ以前に勤めていた会社が自由過ぎたこともあったが、あまりに息苦し過ぎた。一例が電話での話し方の決まりがそれこそ1から10まであって、私が入社したのは40歳を少し過ぎた頃だったが、そんな男が朝から電話の話し方について上司の許可をもらわなければならなかったのだ。
そんな細かなことまで指導があるくせに、こちらの分からないことがあって何か質問でもしようものなら、「そんなことも知らないのか」とでも言ったように、馬鹿にした様子で何も教えてくれないか、自分の無知さを罵倒されるだけだった。すでに辞めた会社のことなので悪口を言っているように聞こえるかもしれないが、私の今付き合いのある会社には、その時のことを反面教師にして「分からないことを聞ける土壌を作ろう」と呼び掛けている。部下や周囲に分からないことがあった時、そのまま放置させておくと、それぞれが「これでいいだろう」と勝手に解釈したり、適当にやり過ごされることになるからだ。
信頼関係はあるか
分からないことはすぐ聞くに限るが、私が経験したように職場によっては上司や先輩に聞きずらい雰囲気があるのも確かだ。いつも部下が理解しているかを気にかけながら、聞きやすい雰囲気を作るのはリーダーの務めだと私は思っている。部下が理解できていないと思ったら、分かりやすく言い換えたり、「理解できている?」と絶えず注意を促すようにしなければならない。間違っても「そんなことも分からないのか」といった態度では、部下は質問しづらくなる。もし部下が「分からない」といってくれないなら、信頼関係を築いて、「分からなくても、それはあなたの能力が低いという意味ではない。むしろ分からないと言えることを評価する」ということを理解させなければならない。
分からないことを素直に言える雰囲気が大切なのは、そんな雰囲気でないとビジネスで大切な挑戦する気概も持てないと思うからということもある。目標数値に挑戦する、何か新しいことに挑戦する、昨日までの自分に挑戦する…など、さまざまな挑戦がある。挑戦するには、まず何に挑戦するのか、その目標を決めなければならない。そして、どんな大きなことも、それは小さな挑戦の積み重ねでクリアできるものだ。一人ひとりが自分で目標を作り、その目標に挑戦し、クリアしていく―そんなことは、互いに何でも言い合える雰囲気の下でなければできないではないか。
挑戦があって成長がある
かつて、「挑戦心のない人に、技術者は務まらない」といった経営者がいた。しかし、これは何も技術者だけの話ではない。どんな人でも、挑戦心を失い、自分に付加価値がつけられなくなったら終わりだ。特にリーダーは部下が挑戦できるようにチャンスを与え、失敗しても再挑戦のチャンスを与えるようにしてやるべきだ。部下が「やるぞ!」という意欲を削ぐようなリーダーであったり、他人を否定する雰囲気がまん延しているような会社には将来はない。挑戦をクリアした時、そこに「やり遂げた」という感動を得ることで、人は自然に挑戦を繰り返すようになるもの。そうして人や会社は成長していくのではないだろうか。
通常、会社は教育訓練を通じて新入社員らを教育していく。私はその教育訓練より前に、どちらかと言えば先に挙げたような会社の雰囲気がどうかということに関心を持っている。教育訓練云々は会社の良い雰囲気の下にあってこそ効果を発揮するものだ。私の勤めた中でも最初の会社は「自由過ぎた」とお話したが、これは会社の雰囲気が良かったという意味では決してなく、むしろ業績の悪い会社が持つ特有の「たるんだ雰囲気」がまん延していた。ちなみに、教育訓練というのは、「教育」と「訓練」に分かれるように、それぞれはまったく別者だと考えている。
教育訓練も雰囲気で成果が上がる
例えば、よく小売りやサービス業でしているようなお辞儀の仕方などは「訓練」だ。一言でお辞儀の仕方と言っても、上体を30度に曲げるお辞儀から、45度に曲げるお辞儀、深々と90度に曲げるお辞儀と、いくつか種類がある。顧客を迎える時は30度、送り出す時は45度、自分に非があって謝る時には90度といった具合だ。これは理屈ではない。最初にそれができるようになるまで、徹底的に身体に覚えこませなければならない。そうして初めて必要な時にさっと反射的にその角度まで頭を下げることができるのだ。これができるようになって「教育」が生きてくる。
教育とはいろいろな定義があるだろうが、こちらの提示した判断基準に基づいて考え、相手が答えを出すようになることだと考えている。例えば、自分に非があって顧客を怒らせてしまった場合、深々と頭を下げ、次にどうすべきか最善の策を尽くすように、一人ひとりが考え、行動できるようにしなければならない。最近は訓練を嫌がる若者が増えていると聞いたことがあるが言語道断だ。訓練のできない者が、教育によって成果を上げられるようになるとはとても思えないからだ。しかし、それもこれも会社の雰囲気が左右する。まずは「健全な」雰囲気づくりに企業を挙げて取り組んで欲しい。