【目次】
行政もデジタル空間へ
新型コロナウイルスの感染拡大を契機に変化が求められているのは企業ばかりではない。行政においてもその再構築に今や躍起になっている。特に東京と大阪でどのような変化を見せているのか、その行政を中心にした動きを見ることで企業の参考にできることも多いのではないだろうか。
新型コロナウイルスは日本のさまざまな問題点をあぶりだした。その一つがDX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れだろう。東京都は新型コロナの感染拡大第1波の時、営業時間の短縮や休業要請に協力した事業者への協力金の支給を行ったが、その際行政のシステムはもちろん、主な対象であった飲食店のIT導入やデジタル化も千差万別で、混乱した経験を持つ。
西新宿にある現在の都庁は1991年に完成している。これを指して、「昭和から平成に変る頃に都庁は現在の場所に引っ越しをした」と言われてきたが、今度は「平成から令和に変った頃に、デジタル空間に移行した」と記憶されるようになるのではないか。それぐらいの勢いで、都政の改革、DX化が進もうとしている。
行政の効率化のために掲げるのが「スマート東京」。西新宿ではその実証・実現の場として、第5世代通信(5G)アンテナ基地局とサイネージなどを組み合わせた「スマートポール」を運用している。
眠りから目覚める時
スマートポールは通信基地局でもあり、公衆WiFi、人流解析カメラ、街路灯、デジタルサイネージなどを搭載した多機能ポールとなっている。目指すのは“電波の道”を公共インフラとして確立することだ。20年秋には同地域で自動運転タクシー車両を公道走行する実証実験も行っている。同地域では今後も新たなアイデアが次々に試されることだろう。
東京を国際金融都市にする構想とその政策も、新たな構想案とともに本腰を入れることになる。これまで1900兆円といわれる個人資産を抱えながら「何も動かない」と見られてきたが、その眠りからいよいよ目覚める時を迎えているのかもしれない。小池知事自身、「ラストチャンスでありビッグチャンス」とするように、香港の情勢を踏まえて海外金融系企業と人材を東京に誘致する香港窓口を開設。21年は国と連携しながら政策を繰り出す年になるとしている。
一方、都内の中小企業のテレワークの導入と普及も大きなテーマになっているが、東京都ではテレワーク導入の助成を強化しているほか、制度融資の利率優遇などを適用する「テレワーク東京ルール実践企業宣言」制度を20年12月に始めた。単にテレワークの導入を増やすだけでなく、導入をきっかけに業務の見直しや働き方改革、経営改革につなげる狙いがある。
中小企業にもDXを促進
中小企業でのDX実証事業は21年4月に始める。スタートアップ企業がウェブ商談システムやデリバリー用アプリなどを中小企業で実証し、新型コロナの感染拡大で事業の機会が減っている中小企業に実際に役に立つのかを確かめる。
また、新たな領域に目を向けDXを進めることにも力を入れる。東京都と東京都立産業技術研究センターは20年11月に「DX推進センター」を開設した。ここでは地域限定の5G「ローカル5G」とロボット、IoT(モノのインターネット)を一体にした開発支援を提供している。
大阪でも金融の一大拠点へと押し上げる動きが上がっている。拠点集積で先行する東京と差別化するため、大阪府は先物取引などのデリバティブ(金融派生商品)と技術革新を軸にした拠点整備に取り組む方針だ。政府は20年10月に国内の複数の拠点を競わせ、国際金融センターの設立を支援することを表明している。その大阪での実現には外国語教育環境の整備など課題は山積しており懐疑的な見方も多いが、SBIホールディングスが関西に拠点を設けることを表明しにわかに注目が高まっている。大阪府・市はこの機を逃さず、「ベイエリアが金融特区にふさわしい」として誘致の動きを強めている。
社会的リスク挑戦の場の活用
関西国際空港を経由して大阪を訪れたインバウンドの数は今では前年比1割強の水準にまで落ち込んでおり、20年は200万人を割り込む見通しとされているが、19年のインバウンドの数は10年前と比べて約7倍の1200万人と急増していた。その時からインバウンド頼みの産業構造からの脱却の必要性は訴えられていたものの、現下のコロナ禍でその切迫度はいやが上にも増している。
その焦点は夢洲を活用した新産業の育成にある。大阪府の吉村知事は、「23年に事業としてスタートし、25年には多くの方が万博会場に『空飛ぶクルマ』でアクセスできる、そんな環境を整えたい」と全国に先駆け、夢洲をその実証地として整備する方針。
大阪湾岸部にあって万博開催地でもある夢洲は居住区のない人工島。だから社会的リスクに挑戦できる実証実験の場として最適ともされている。その夢洲を中心に、空飛ぶクルマ以外にも大阪商工会議所や府市で作る実証実験推進チームが21年から企業を募り、各種実証実験を募集する。IoTや自動運転、人工知能(AI)などの分野で中長期の社会における実現を目指す事業者を10社選定し支援するなど、官民で矢継ぎ早に取り組みが進もうとしている。