新しい資本主義モデルの構築へ

日本経済新聞の1面に「その利益、社会に役立つか」との見出しの付いた記事が掲載されたのは今年の9月だった。コロナ禍を機会に配当など株主の利益でなく、企業の社会的な責任を果たすために優先的に利益が使われているかという観点から、株主が声を上げ出した実態を伝えている。その記事の中で、経営学者のピーター・ドラッカー氏が著書「ポスト資本主義」で、「ポスト資本主義を規定し、組織する原則は『責任』である」と説いたことを紹介している。それは企業だけでなく、コロナ禍対応で歳出を膨らませ大きな政府へ動く国家も同じであるとしている。

企業が株主第一主義からさまざまな利害関係者を重視する方向へ明確に舵を切る様は、本格的に企業と社会が直接向き合う時代の幕開けを予感させる。記事は「資本主義は危機に直面すると新たなうねりが強まる。約90年前、世界恐慌を契機に国家が積極介入する修正資本主義が現れた。今のステークホルダー重視の潮流は国家だけに頼らず社会全体で持続可能な富の再配分の仕組みを模索する。新しいモデルを確立できるか。資本主義の強さが試される」と結んでいる。もともと日本の企業がこれまで大切にしてきたことが改めて世界的に見直されようとしている。

渋沢翁が説く倫理と利益の両立

日本の資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一翁は、その著書「論語と算盤」の中で、「真正の利殖は仁義道徳に基づかなければ、決して永続するものではない」とし、利益は自分だけのものではなく、他者や社会への配慮なしには成り立たないことを明言している。渋沢翁が「論語と算盤」を著したのは大正5年。幼少期に学んだ「論語」を拠り所にして倫理と利益の両立を掲げ、経済を発展させ利益を独占するのではなく、国全体を豊かにするために富は全体で共有するものとして社会に還元することを説くと同時に、自身もそれを心がけた人となりは広く知られているところだ。

その利益についてであるが、ドラッカー氏はその著書「マネジメント」の中で、これまで広く議論されている中に大きく2つの誤解があると説いた。まずその一つは“利益性悪説”とでもいえばよいか、利益への嫌悪感についてだ。「社会と経済にとって必要不可欠なものとしての利益については、弁解など無用である。企業人が罪を感じ、弁解の必要を感じるべきは、経済活動や社会活動の遂行に必要な利益を生むことができないことについてである」としている。個人レベルで語る利益とは異なり、公器としての企業は社会的な道具であり、社会の中でそれを立派に機能させる責任があるということだ。

企業の目標は商品・サービスの供給、利益は条件

もう一つについてもしっかりと心に留めたいところだが、「利益は、個々の企業にとっても、社会にとっても必要である。しかしそれは、企業や企業活動にとって、目的ではなく条件である」ということだ。企業活動の目的は利益とは別にある。つまり、それは利益を上げることではなく、社会にとって必要な製品やサービスを供給することに他ならないのだという。それを聞いて耳の痛い経営者も多いのではないだろうか。普段から手段と目的をはき違えることの愚かさについては指摘することはあっても、自ら利益を目的とするところはなかっただろうか。

ドラッカー氏は企業の本来の目的である社会に必要な製品やサービスを供給するために、利益を上げることというのは必要不可欠な条件なのだと言っている。いわば、企業にあって利益とは、社会的な責任を果たし続けるための燃料なのだ。これを利益が目的と捉えていては、例えば不適切な会計処理、その中の一つでもある系列店や下請けなどへの押し込み販売なども当然の手法となりかねない。そうではなくて社会に必要な商品やサービスを提供することが目的なわけだから、それらを磨き上げることに企業を挙げて地道に取り組んでいかねばならないのは言うまでもない。

私たち自身で新たな社会を

それではその社会的責任の限界はどこにあるのかということが問題になる。コロナ禍という大災害を前に飲食店などは営業時間の短縮要請に対応するなど、社会を守るための行動がとられている。中にはそうした要請を無視する企業もあったりするが、ドラッカー氏は「ポスト資本主義社会」の中で、「社会全体の問題は組織のリーダーたちの共同責任である」としている。国に期待する向きもあるが、国はプレーヤーにはなりえない。つまり社会を変えるのは企業を含む、私たち自身であるということだ。この覚悟ありやなしやということが突きつけられている。

今、「アフターコロナ」とか「ウィズコロナ」といった言葉が溢れているが、これらの言葉の背後には、「コロナ禍以前には戻らない」という意味が含まれている。漫然と「元の状態に戻る」ことを期待していては、こうした社会の動きに取り残されることになる。それなのにいまだにコロナ以前の社会を懐かしむ経営者が多くないだろうか。また、「ポスト資本主義」からの引用で申し訳ないが、「私は日本が明治維新以降、近代社会の提起するあらゆる課題に応えてきたように、これからも新しい時代の新しい課題に応えていくことを確信している」という。私たちにとって何と心強い応援の言葉ではないだろうか。

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