【目次】
はなからあきらめていないか
人は時として大きな賭けをはなからあきらめてしまうことがある。勝率を計算し、最初の一歩を踏み出す前に、うまくいきっこないと自分に言い聞かせてしまう。私もそれまでそんな風に考えていた。私がうまくいきっこないと思う以上に、周囲もそんなことはできないと考えているので、一歩を踏み出すことなくあきらめることに何の障害もなかった。あるのはそれまでと同じ何か煮え切らない日常が続くだけだった。でも一つ確かなことがあった。それは私自身も含めて、周囲の誰もが不可能だと考えていることがもし実現できたら、面白いだろうなと思うということだった。
誰でも事の大小はあっても、人生で一度は賭けと思う場面に出くわす。後で振り返ってみると、そんな大したことではなかったのに、何故か自分ではまるでその成否がその後の人生を決めるかのような思いに駆られたりする。まだ幼い時分、近所の悪ガキたちと遊ぶ際に感じていた、遊ぶことに時間を忘れて没頭した無我夢中さにも似ているかもしれない。それが大人になるに従ってそんな無我夢中さが少なくなっていったのは、それまでの経験から「失敗するかもしれない」「負けるかもしれない」「(失敗すれば、負ければ)恥ずかしい」ということに対する怖れが大きくなるからかもしれない。
意外にできるもの
私がそのことを思い出したのは、サラリーマンを辞めて独立したばかりのころ、まだ仕事がなくて困っていたのだったが、そこに業界でトップの企業からそれまでの人生では考えられないほど、眩しすぎるくらいの面白いイベントに関する仕事のオファーをいただいた時だった。その時の私は目の前に急にスポットライトが当たったステージが現れたようで、そのことにうれしい気持ちよりも、むしろ怖い気持ちの方が強かった。怖いというのは、それまでに私の経験をはるかに上回るようなレベルの仕事に、「うまくやっていけるだろうか」という思いが強かったためだ。
チャンスというのは本当に急に来るものだと思い知らされた。もう少し準備をする時間があれば、自分だって何かそれに向けて心積もりをしておけるのにと。しかし、その心積もりといっても具体的にこれといったものはないのだが…。それでも、辞退しようかと思う気持ちを抑えてとりあえずやってみようと思ったのは、私の場合、先にも言ったように、その時仕事がなく、この先の生活の見通しが立たないという窮地にあったからだ。結局、その仕事は途中で予期しなかった困難にもあったが、何とか無事納めることができた。当初、自分では不可能にさえ思えたことが、意外にやれたことでホッとしたものだった。
経験を積むほどに邪魔をするプライド
その仕事をやり終えてから、その企業との関係こそ終わってしまっているが、それを機に不思議と他の仕事のオファーがいろいろとくるようになって、今に至っている。私の場合、人生の岐路と思うような場面で、このように上手い具合に終わったことばかりではなかった。むしろうまくいったのは例外で、失敗した方が多かったと言えるかもしれない。失敗したり、その前にそもそもチャンスをみすみす取り逃がしたという思いのすることの原因を考えてみると、どうも自分がその時に持った高すぎるプライドが邪魔をしたのではないかと思うことが多いことに気が付いた。
自分がそれまでにやってきたことに対する評価を自ら下げたくないために、今さらそんなことなんてできないと思い、新しい苦労を避けてしまうのだ。または、自分がみんなに期待されているにも関わらず失敗することが怖くて、予めその予防線を張ってみたりする。チャンスというのは何等かの新しいことが伴うのが当たり前だが、経験を積めば積むほど失敗が怖いというか、失敗した時の周囲からの嘲笑が頭に思い浮かび、それが恥ずかしいのだった。そんな自分にいつも言い聞かせてきた言葉がある。「いつも新参者のつもりで情熱を持って考え、計画し、行動しよう」。
チャンスに乗るか乗らないか、どっちが面白い?
チャンスは私たちがそれを到底できないと思えることでも、意外に現実になるきっかけになるということを忘れてはならない。経験を積むほどに、いろいろなできない理由が容易に頭をよぎる。特にそれまでの経験がわずかしか生きそうにないものであればなおさらだ。しかし、同時にそのチャンスによるメリットがあることも忘れてはならない。たとえメリットの数は少なくても、それが間違いのないもので、たくさんのデメリットより大切と思えるなら、そのチャンスに乗ってみるべきだろう。それで失敗しても、その時の経験は後で振り返っても、面白いものになるはずだと思うからだ。
しかし、そのためにはまず余計なプライドは捨ててかかることだ。プライドがすべて不要だといっているわけではない。プライドは自分の自信を支える基盤であり、自分を高めていく原動力にもなるものだ。しかし、そのプライドが邪魔をして時に気持ちを後ろ向きにさせてしまうこともある。今はプライドを捨ててもチャンスをつかむべきときではないのか、自分を客観視するとともに、そのプライドを賭ける意味がある時なのかどうか慎重に分析し、そして挑戦する時は勇敢に行動し、少しずつでも小さくても結果を積み重ねていくことが大切だろう。