【目次】
ますます早くなる変化の速度
通常、企業が成長するためには市場の変化に応じて戦略を変えていく必要があるとされる。同じ商品・サービスを長期間に渡って販売していると、競合に巻き込まれたり、顧客に飽きられたりして、売り上げが停滞する可能性があるからだ。しかし、このところ世の中の変化のスピードが新型コロナによって速まったと言われる。私の仕事もコロナ前と今とでは否応なしに、変わろうとしている。しかしまだそれが成功するかどうかは分からない。ただでさえ変化についていくのに大変な苦労が伴うのに、その速度についていくとなると並大抵の努力では足りないかもしれない。
今も新規事業を考えたり、乗り出そうとしている企業は多いに違いない、中にはこれまでと違う方向に進出して、停滞を脱したいと考えている経営者も多いだろう。しかし、よく言われるように、従来と異なる全く新しい分野に進出することは初期投資がかかるうえに、必ずしも成功するとも限らず、リスクが高いといえる。一方、全く新しい分野ではなく既存事業の周辺分野の方がまだ成功する確率は高いといわれる。例えば、飲食店が店外への飲食物の提供を始めたり、オリジナルドレッシングを製造して販売するといったようなケースがそれだ。
手っ取り早く儲けることなどできるわけがない
しかし、ここでもよく犯す間違いがある。それは「手っ取り早く儲かりそうだから」という理由で新たな事業に手を出すことだ。例を挙げて悪いが、いわゆる代理店ビジネスもその一つだろう。私も誘われた経験があるが、「この商品を売っていただいたら○○%の手数料をバックします」といった誘いに安易に乗りがちだ。特にその商品が自社の既存事業に関わりがあったり、その延長に考えられるようなものである場合、既存事業との相互作用に期待をしてしまい勝ちだ。それでも人手が余っているなどの事情があれば納得もできるが、ただ単に既存事業が行き詰っているからという理由で手を出すと、どっちつかずの状態になりかねない。
私の知り合いのコンサルタントに話を聞けば、そのような場合、初期投資額は大きくなくても、ブランドイメージを棄損したり、まして期待するほどの利益まで出ないことが大半だという。中には商品の内容をよく吟味もせずに代理店になり、本業をおろそかにしてまでのめり込むケースもあるようだ。こうなると当初の起業に当たっての思いなどはどこかに置き忘れられ、行き当たりばったりの企業経営に陥ってしまうことになりかねない。苦しくても、安易に何にでも手を出したりせず、自分が創業を志した時の思い、目標を思い起こすことが肝要かもしれない。
フランチャイズチェーンで成功確率を高める
それでも、どうしても新規事業について手堅く考えたい経営者の中には、実績のあるフランチャイズチェーンに加盟することで、成功確率を高めようとしたりすることもある。実際にフランチャイズチェーンの展示会に行くと、ハウスクリーニング、学習塾、介護事業、飲食業など、実に多くの事業がある。これらフランチャイズチェーンに加盟して新規事業に乗り出すには、加盟金などの初期投資が必要になる。実際に始めたら売り上げが本部の資料に出ていたモデルケースよりもはるかに少なく、赤字で苦しむことも珍しくない。確かに新規事業をゼロから始めるより成功確率は高いのかもしれないが、リスクがゼロではないことを心しなければならない。
そして最近活発になっているのは他企業の買収だ。「買収」と聞けば大企業だけの話と捉えられがちだが、企業の後継者難による承継問題は深刻で、それら企業の株式を買い取るM&Aのほか、一部の事業だけを譲渡してもらう方法などで新規事業へ進出する中小企業が増えているのだという。企業は創業から5年を経過すると各年の生存率が90%を超えてくる。例えば10年存続したということは、それだけでも数々の問題を乗り越えリスク耐性を培い、安定状態に達したものと考えることができる。そんな会社を買い取る方が、ゼロからの起業に比べて圧倒的にリスクが少ないとも見ることもできる。
買収も選択肢
特に今日では後継者がいないために、設備や技術、人材などの基盤があって利益も出ているのに、他社への売却を考えている企業は少なくないとされる。確かに買収にもさまざまなリスクが存在する。財務諸表に現れていない残業代未払いなどの潜在的な負債がある可能性もある。オーナーが交代すれば、従業員の多くが退職して事業継続ができなくなる可能性だって考えられる。しかし、それでも今日、買収は新規事業に進出する有力な手段となっている。いきなり買収することに抵抗が感じられるなら、まずは出資することで業務提携から始めるケースも考えられる。
企業経営にはリスクはつきものだ。しかし、だからといって変化がますます激しくなっている日本の社会において、「何もしないでいる」ことも企業や人生を危機にさらすリスクになる確率が高まっているのは事実だ。前を進むか、立ち止まるか。どの道をとろうともリスクは避けられない。ならどの道を進むのかは、それぞれの企業や個人の価値観次第だろう。どの選択をとるにしても、たとえ何もしないという選択をしても、それはそれで必要なのは現在の事業にかける経営者の情熱だ。世の中はますますチャレンジャブルな世界を迎えようとしている。