【目次】
普段からの付き合いが大切
ある金融機関の方と話し合っていた時のこと、その方は上手な金融機関の使い方をしている社長と、そうでない社長の違いについて熱弁をふるっておられた。その方によると「金融機関の利用が下手な社長は、金融機関が融資しか行っていないかのように、自分が必要になった時しか連絡をとろうとしない。これに対して、上手な社長は常日頃からの連絡を欠かさない。どちらの融資が通りやすいかとなれば、言わずもがなでしょう」と。常日頃からの連絡というのは、新商品を発売したとか、今度こんな新しいところとの取り引きが始まるといった、融資の話以外の情報提供を指す。
もともと金融機関という存在は、企業に必要な資金の融通を行うだけでなく、そのほかにもコンサルティング、ビジネスマッチング、補助金の申請支援など、経営に役立つサービスを提供してくれている。だからそうした面においても、うまく付き合って活用すべきものだ。常日頃から金融機関と連絡を取り合うのも、融資以外にこれらさまざまな点で金融機関を「使い倒す」ということなのだ。よく「雨の日に傘を取り上げるのが金融機関だ」と話す社長もいるが、気持ちは良く分かるが、金融機関の立場に立てばそれも当たり前の行動でしかない。それより、そんな状況にならないために普段からの付き合いが大切になる。
対等の関係で付き合う
その金融機関の方の話でも、上手に活用するためにはいくつかの取り組みが必要になってくる。まず、その1つ目が、金融機関は3行以上と取り引きをすること。それもできれば大手銀行のほか、地方銀行、信用金庫といったように、銀行の種類を変えておいた方が良い。それぞれの立場で、精通する情報なども異なってくるからだ。その上で選択肢を広げておくということだが、実際に1行から融資を断られても、他行が支援してくれることもある。取引行を増やすために、まず預金口座を開設し、そこに売り上げなどのお金が入るようにして、信用を積み上げておかないといけない。
2つ目が、なかなか言うは易し行うは難しとされるのだが、社長と金融機関の担当者との付き合い方の問題だ。企業の方はお金を借りる立場と思ってへりくだる必要はなく、逆に「俺は客だから」という上からの目線の態度ももちろんNGだ。理想は相手の立場を考えながら対等な立場で話をする「横から目線」を意識して会話をすることだという。担当者にもノルマがあるだろうから、特に問題のない範囲でそれに協力をしてやってもいい。そうすれば、相手も人の子。「今度の支店長はイケイケなので審査が通りやすいですよ」などといった本音の情報も得られたりする。
金融機関とは持ちつ持たれつで
3つ目が、先の話とダブってしまうが、金融機関のメリットも考えてやるということだ。自社のメリットを追うばかりでなく、金融機関の立場に立って考えてやるくらいの余裕が欲しい。特に民間の金融機関は収益を与えてくれる企業を優良顧客と捉えている。先の担当者が抱えるノルマに協力してやることも、そのささやかな一手といえる。
4つ目は、普段から企業の定性情報について提供することだ。売上高や利益などについては、4半期ごとの決算の報告で把握しているだろうが、それ以外の、例えば冒頭にも挙げた新商品を発売したとか、新しい取引先のことや、新聞などに掲載されたような前向きな情報などは、積極的に知らせると良いだろう。もちろん担当者は定期的に代わっていくだろうが、そうした情報は記録されて、後任にも引き継がれることになる。
5つ目、これが最後だが、金融機関の担当者にとって勉強になりそうなことがあれば、そのノウハウを提供することが挙げられる。金融機関の担当者には「自ら能力を高めたい」という向上心にあふれる人が少なくない。最新の技術や業界の動向などを提供すると、知識の向上に役立つことから喜ばれることが多い。
融資はビーチパラソルを借りるように
残念ながら、多くの社長は資金繰りが苦しい時になって、初めて金融機関の融資を利用しようとするため、勢い、決算書などの財務状況が芳しくないタイミングで「どうか融資をお願いします」と懇願する格好になってしまう。だが、金融機関の立場に立てばすぐに分かることだが、それだけだと危なっかしくて「とても貸せない」となるのは、誰が考えても同じだ。逆に、業績がある程度好調で、決算書もある程度良い数字を出している時には、金融機関が「融資のご利用はいかがですか」と持ち掛けてくる。まさに晴れの日に傘を貸そうとするわけだ。
このことを揶揄する人は多いが、何度も言うように、これも金融機関の立場に立てば当たり前。むしろ、晴れの日がなかなか続かないのが、中小企業の常でもある。一時業績が良かっても、もしそれが悪化すれば金融機関から手のひらを返されてしまうことになりかねない。あるべき姿としては、好業績を実現して、さらに事業を発展させるための融資を活用することだろう。私と話していた金融機関の方は、「金融機関からはとどのつまり、快晴の浜辺で快適に過ごすためのビーチパラソルを借りることを目指して欲しい」と、融資の利用に対する姿勢を話している。