変えられないものは受け入れる

世の中の変化に対して2つの相反する対応の仕方がある。一つは変化に惑わされずに、決めたことに専念して継続することが大事だというやり方。もう一つは、同じことを続けていてはいけないというやり方だ。最近はどちらかといえば後者、つまり変化の時代には、ダーウィンの進化論のごとくそれに合わせた変身を自らも遂げなければ、生き残ること、成長することは難しいという主張が勝っているように思う。果たして本当にそうなのだろうか。どちらが優れているのだろうか。このことを植物の世界で考えた人がいる。稲垣栄洋・静岡大学大学院教授だ。

動物はエサや居心地の良い場所を求めて移動することができる。しかし、植物はもちろん動くことができない。種子が落ちたところで、そこがどんな場所であろうと、そこで生えて一生を終えるよりほかに選択肢はない。だから、「変えられないものは受け入れる」というのが植物の基本的な生き方とされる。変えられないものとは何か。それは自らが生える環境だ。その環境条件は、植物自身が変える力を持っていない。あるいは、周りに生えている植物も変えることはできない。だから、変えられないものは受け入れるしかない、ということになる。

変えられるものを変える

それでは、植物にできることはないのかといえば、それがあるのだ。それは、「変えられるものを変える」ということだ。稲垣教授によれば、これも植物の基本的な生き方になる。それでは変えられるものとは何か。それは植物自身だ。自分の体や成長の仕方はどのようにも変えることができる。そのため、植物は自分自身を変化させるのだ。この変化できる能力を「可塑性」というそうだ。動くことのできない植物は、動物に比べて可塑性が大きいのだという。人間の大人であれば、大きな人と小さな人とで倍も身長が違うということはないが、植物は同じ種類であっても、それが当たり前に起こるのだそうだ。

植物の中でも雑草は特に可塑性が大きいとされるのだという。つまり変化する能力が大きいことを指す。図鑑などで大きさが1mくらいあるとされる雑草でも、実際には5㎝くらいの大きさで花を咲かせていることもあるそうだ。また、飼料用のトウモロコシ畑では、背の高いトウモロコシと競い合って、4mを超えるような草丈になっていることもあるとされる。まさに大きさは自由自在。可塑性が大きいのだ。そしてそれは大きさばかりでなく、伸び方にも現れているのだそうだ。雑草は茎を横に伸ばして陣地を広げていくタイプと、上に伸びて自分の陣地で競争力を高めていくタイプがあるのだという。

変貌自在な雑草

これらはビジネスの場面でもなぞらえることができる。周辺にどんどん事業を拡大していく事業拡大型戦略と、今の事業を深掘りして強化していく事業深堀型戦略。そのどちらが有利かは状況によって変化する。つまり拡大すべき時と、深掘りすべき時があるということだ。雑草の戦略はまさにその使い分けをうまくしているところに特徴があるとされる。つまり状況によってうまく戦略を使い分けているというのだ。ライバルのいない空き地のような環境では、雑草は横へ横へと茎を伸ばして陣地を拡大していく。しかし、ライバルが現れると一転して立ち上がり、競争力を強化する戦略をとるそうだ。

話をうかがっていると、雑草の生き方はまさに見事というほかない。人間が勝手に決めた図鑑などに書かれた通りには生えていないのだ。花期は春と書いてあるのに、秋に咲いていることもある。草丈は30㎝くらいとなっているのに、先ほどからの例のように人間の背丈ほど大きくなっていることもある。逆に立ち上がることなく、地面を這っていることもある。まったくつかみどころがないのだという。それだけでなく、植物にとっては基本的な一年生(芽を出して1年以内に種子を残して枯れる)か多年生(数年以上生息する)かといった分類さえ、飛び越して変化してしまうものもあるのだそうだ。

枠にしばられていないか

分類というのは人間が植物を理解するために勝手に作っているものに過ぎないということが良く分かる。図鑑も同様だ。雑草の立場に立てば、別に図鑑の通りに生えなければならないなんていうことはまったくないわけだ。図鑑の説明にあるのは、私たちが勝手に決めている「制約」であったり、「固定観念」であったりするだけだ。

こうした雑草を見ていると、業界や業種など、ビジネスの世界でも私たちは勝手に区別をして分類している。初めて見たり聞いたりするものを理解するのにも、それはどの分類に属したものかなどと考えて、それに触れる取っ掛かりをつかもうとする。そして勝手にレッテルまで貼って、分かったつもりになっている。確かに、何かを理解しようとするときに、勝手に枠を決めて考えるのは便利かもしれない。

しかし、図鑑に書かれた通りに生えていない雑草の生態を知るに従って、そんなものに縛られる必要なんてまったくないと思わずにいられない。もっと自由に発想していいのではないか。うちは製造業だからそんなことまでする必要はないとか、サービス業だからこれは欠かせないとか、誰かが決めた枠を越えるべき時が来ているのではないだろうか。

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