【目次】
根強い営業の苦手意識
ここでも度々お話していることではあるけれど、セールス・営業に対して苦手意識を持っている人が非常に多くいることに驚かされる。営業はもちろん売り上げに直結するものなので、苦手意識を持ち続けられることは企業にとって大きな損失だ。特に営業に関わる担当者をそう多く抱えるわけではない中小企業などにとっては、個々人の意識の持ち方が業績を大きく左右することになるので、そのような苦手意識を見過ごすわけにはいかない。そんな担当者、特に若手らと話をすると、そもそも「営業は何をするところなのか」というところの理解が不足しているように思う。
「営業は何をするところか」と問われて、「自社の商品やサービスを売るところ」としか応えられないのは少し寂しい。もちろん、営業はそれぞれの企業で開発された商品・サービスを、「知ってもらい、買ってもらう」というリレーの最終ランナーのような立場にいる。その開発された商品・サービスは何のためにあるのかと言えば、想定する顧客の課題を解決したり、ニーズに応えたりするためのものだ。だから、営業で商品やサービスを売った後には、必ずその顧客の喜びがあるはずだ。ノルマなどが先行したりすると、「自分のために数字を上げる」ということが有り勝ちになるが、本来は決してそんなものではないはずだ。
顧客の課題解決のために営業がある
よく営業の担当者に、営業のどういったところが苦手なのかと聞いて回ると、「無理にお願いしている感じがする」「商品・サービスを押し売りする感じがする」「そもそもお金をもらうことにネガティブな感じがする」「人の良さに付け込んでいるような罪悪感が残る」「断れることが嫌だと思っている」…といったことが次から次へと出てくる。しかし、自社の商品・サービスがそもそも想定する顧客の課題を解決するものであることを確信していれば、そのようなネガティブな言葉が出るようなことにはならないはずだ。営業が苦手な人にはその確信がないことが多い。
例えば、私が関わった例でも、社長がまだ独立して間もない頃、社長自ら営業を行っていたために、自分の開発した商品がどれだけ他社のものと比べて優れているのかが良く分かっていて、実際に業界からも注目を集めていた企業があった。しかし、手ごたえを感じた社長がその後営業強化のために人を増やし始めたとたん、もともと最小の人数でぎりぎりで回している状態なので新しく採用した人への目配りが疎かになってしまい、新しく採用した営業マンが「自分とは関わりのないところで作られた商品で、それを売ることを単なる役割としてしか見ていない」という状態を起こしてしまっていたことがあった。
自社商品に自信を持つ営業、持たない営業
この新しい営業マンを一方的に責めることもできないが、実は営業の担当と肩書が付いているだけで、大して自社の商品やサービスの実力を知らずに、他社とのそれの違いなども十分に知らず、また使った経験もなく営業している人が結構たくさんいるものだ。このような営業マンと、絶対的に自社の商品・サービスに自信を持っている営業マンとでは、全然違った結果が生まれるのは当り前のことだ。最近では「正社員でない」ことを言い訳にする営業の担当者もいるが、正社員であろうがなかろうが、営業という職種を考える時、誰より詳細に自社の商品・サービスについて知っているべきだし、「これは絶対に顧客に喜ばれるものだ」という確信を欠かすことはできない。
自社の営業でそれができていないようであれば、ここは原点に立ち戻り、自社商品・サービスの開発の経緯から勉強し直すべきだろう。肝心なのはどんな顧客の、どんな課題、ニーズに応えるものなのかということをしっかり掴むことだ。そして、それぞれの企業が顧客の課題やニーズに対応するために存在すること、企業はそのために商品やサービスづくりを行っていること、営業はそれを顧客につなぐ役割を果たすところであることをしっかり押さえなければならない。
顧客を喜ばす営業
営業を得意にする担当者は間違いなく、自社の商品・サービスに自信を持っている。念のために言うと、それはその商品・サービスを開発する技術力が優れているというより、設計開発の段階からどの顧客に、どんな課題やニーズに対応しているのかがはっきりしているということだ。狙いがはっきりしているので、顧客に対する営業も前向きな姿勢を維持することができ、顧客の役に立てているという強い思いを持つことができる。自分のしていることが顧客を喜ばすことにつながるという理解ができれば、こんなに強い営業はない。
「顧客を喜ばす営業」に遠慮などいるはずはない。さらに、自社の商品・サービスに関連して、使い方のアドバイスや独自のアレンジなどを付け加えて、とことん顧客の悩みに応えることができれば、一層の信頼の獲得もできるに違いない。以上、見てきたように、本来の営業の姿には嫌なプロセスなど何一つないことが分かる。すべてはとらえ方の問題だろう。そもそも、「何のために企業があるのか」―その根底部分を忘れないで、自社の商品・サービスに自信を持つこと。このマインドセットがあれば営業はうまく回るのに違いない。