【目次】
変化を追うのは大切だが…
あらゆる人々の行動様式に変化を促すとされるアフターコロナの時代、これまでのビジネスモデルがうまくいかなくなったことに直面している企業の方も多いだろう。私もその悩みに直面している一人だ。起業してようやく事業が軌道に乗ってきたかと手ごたえを感じていた矢先の新型コロナウイルスの蔓延によって、その積み上げてきた事業モデルを再考せざるを得なくなっている。例えば、顧客獲得の窓口として多くの起業家たちが利用してきたセミナーの在り方もそうだ。多人数を一つの場所に集め、提供するセミナーを通じて将来の顧客を育てていくことが難しくなっている。
代わって台頭しているのがオンラインによるセミナーの開催だ。一見するとリアルのセミナーがオンラインセミナーに置き換わるだけのように思えるかもしれないが、リアルとオンラインではそもそも対象が異なってくる。それまでリアルでは主に中小企業の経営者を対象にしてきたが、オンラインでは利用がまだまだ個人の方が多く、これまでの私の顧客で直接オンラインでセミナーを探して受講することは少ない。それでもオンラインセミナーの開催を優先させると、個人を対象にした内容の変更や、そもそも話し方からしてオンラインでも飽きさせない工夫が求められる。ただ単に手段を置き換えれば済む話ではない。
原点に帰る
斯くの如く事業モデルの再考を求められるわけだが、つくづく思うのは、こうした変化の激しい時代、その変化を見極めて対応しようとするのはなかなか難しい。「変化を見極める」としても、本当に「正しく」見極められるのなら良いのだが、そんな保証はない。それに見極められたところで、次にそれにうまく対応できるのか、そこで今自分たちが持っている強みやノウハウは発揮できるのかとなれば、これも心もとない。セミナーのオンライン化に本格的に取り組むなら、慣れないZoomの使い方、集金を容易にするためのキャッシュレス対応に習熟することは最低必要だろう。
その挙句は、自分がこれまで主な対象としてきた中小企業の経営者が、本当にそうした変化を望んでいるのだろうかと悩むことになるのだ。対応が煩雑になればなるほど、そうした悩みは大きくなる。それが正しいと思える方法なのなら問題はないのだが、誰しも確信を持てるわけではない。何だか袋小路に入ってしまいそうだが、それだからこそ私は小手先の変化を追うのでなく、今の仕事の原点に返って「何をすれば儲かるのか」ではなくて、「何のためにこの仕事をやっているのか」「自分はこの仕事を通じて何をしたかったのか」を振り返る必要があると思っている。
強みとは顧客のニーズを最も良く理解していること
私の周囲を見渡しても、きっと大なり小なり似たようなことで悩んでおられる経営者は多いと思う。起業の際によく話される「強みを生かす」ということは、何となく分かっているつもりでも、時が経つにつれ曖昧になっていることが多い。「強み」というのは自分の興味がそこにあるとか、何となく他に比べて技術が秀でていそうだとか、自分のことを中心に考えるのでなく、結局、顧客のニーズが最もよく理解できているということを指すのに他ならない。もちろん、自分が得意なことと、その顧客のニーズが最も良く理解できていることが合致すれば問題ないわけだが、微妙に違っていることもままある。
コロナの影響で事業が大変と嘆いている経営者の中には、それが真面目な経営者ほど、いの一番に状況の変化に合わせて対応しようとするが、この機会にもう一度、「自分が本当に喜ばせたいと思っている顧客は誰なのか」ということを再考しても良いのではないかと思う。世の中の変化はいろいろ入り組んでいる。自分が最善の対応を取っているつもりでも、顧客から見ればズレていたりするものだ。ここは「どんな人を喜ばせるために事業を行っているのか」「そのために自分のどんな能力が使えるのか」「変化に合わせなければならないのはどの部分で、逆に合わせなくても良いのは何か」ということを見極めたい。
信念を持ち、目的に向かってやり抜く
人はすぐに結果の出ることを成功と思い、なかなか結果が出ないことを失敗と思ってしまう傾向がある。しかし、すぐに結果の出ることは、得てして誰にでも真似のできることが多いものだ。一時的に成功したと思っても、それは本当の成功にはつながらなかったりする。だから多少迂遠なように思えてもしんどい時ほど原点に帰る意味がある。自分の売上のためでなく、本当に顧客に喜んでもらいたいという思いが真の変化への対応を生み、それが社内のモチベーションにもつながる。そして最終的には顧客の心も動かし、「やっぱりあなたのところにお願いしよう」となるのだ。
きれいごとを話しているように聞こえるかもしれないが、決して無駄なことではないと思っている。言葉は悪いが、外部の変化に振り回され、自分の信念を後目に事業を行っているようでは顧客の心を動かすことはできない。誰でも事業は右肩上がりに繁栄していくことを夢見るが、そのためには自分の目的に向かってやり抜くことが大切だ。顧客の心に届くまで商品やサービスの改善を行い、やり抜いていくことで独自のノウハウも蓄積され、それが他社に真似のできない強みを増していく。信念を持ち、自立した生き方に惹かれるのは顧客も同じだ。変化の時代にこそそれを思い起こして欲しい。