【目次】
Win-Winの関係構築へ
よく銀行を目の敵のように言う経営者がおられる。確かに会社からすれば最も資金を必要とする時に、銀行は最も恐ろしい「貸し渋り」や「貸しはがし」の決定権を持つ存在であるので、警戒したり、最悪なのは「敵だ」とさえ思う経営者がいることも理解できる。私の父は小さな町工場を経営していたのだが、晩年はほぼ毎日のように銀行に日参するのを間近で見ていた。そこで具体的にどんなやり取りをしていたのかは当時中学生ぐらいだった私にはまだ知る由もなかったが、銀行は何だか本当に会社の生殺与奪の権利を握っているところなんだなと感じたりしたものだった。
しかし、銀行の立場からすれば、いつ貸し渋りや貸しはがしにあっても困らないように事前に対策を立てておくのが会社の経営者としての役割だ。さらに言うと、銀行の都合でならいざ知らず、その原因が会社の経営状態にあるのなら、そんな状況に追い込まれるまでに本来、何等かの手を打っておかねばならないのである。だから公平に見れば、銀行との関係は本来、ビジネスパートナーであるべきだ。銀行の融資なくして会社の成長はあり得ないように、逆もまた然りなのである。銀行も収益を確保しなくてはならないのだから、お互いにWin-Winの関係を構築していかねばならない。
大切なのは手元現金
会社経営が赤字であれば倒産してしまうのは誰でも分かるが、「黒字倒産」という言葉があるように、黒字だからといって倒産しないとも限らない。売上高は上がっているのに、現金が決済のタイミングの問題で2,3か月先にならないと入ってこない、ということは普通によくあることだ。一方、会社経営で商品の仕入れや、従業員の給料の支払いで毎月出ていく現金は決まっている。そんな時、たとえ帳簿上では黒字を維持していても、現金が回らなくなって倒産してしまうのだ。これからも分かるように、会社経営で大切なのはいかに手元に現金を持っているかだ。
また、ライバルに差をつけて規模を拡大しようと考えているなら、人員を増やし、設備投資を行い、新製品や新サービスを出すなど出費を増やして、新規の顧客開拓をどんどん進める努力が欠かせない。そのためにも潤沢な資金が必要になる。どうしても銀行における役割が求められるのだ。よく「高い金利を払うのはもったいない」といって、銀行からの借り入れを躊躇したり嫌がる経営者もいるが、理性的に考えれば金利以上の儲けを出すことができるのなら借り入れを行って対応すべきだろう。また、そうしなければライバルとの競争に負けてしまうことにもなりかねない。
メインバンクといえど借り入れはほどほどに
銀行と良い関係を築くためには、いくつか心得ておかねばならないことがある。その一つは、基本的に取引は1行だけに絞ってはいけないということだ。これは銀行に限った話でもないが、1行だけに絞ってこちらに選択権がない状態を作ってしまうと、その1行に会社の生存権を握られてしまうことになる。理想的には「都市銀行1、地方銀行1、政府系金融機関1」というのが良いとされている。その中にメインバンクがあるのだが、そのメインバンクからの借り入れも、多くとも全体の半分を少し超えるくらいまでに留めておくのが良いようだ。
銀行の審査部が「貸すか、貸さないか」の判断に迷った挙句、最終的に稟議が通らなかったというケースは多々見られる。こういう時には銀行同士を競わせることが一番だ。これは私の父の例で恐縮だが、時々新規で営業に来る他行の提案書を大切にとっておき、それを取り引きのある銀行との交渉に使っていた。経営者自らがいかに事業の将来性を説明しようとも、外部から見た客観性という点では十分ではなく、信用を得にくい場合がある。その点、他行からの提案書は、「貸すに値する信用できる会社」としてのお墨付きを得た証拠として生きてくる。
定期訪問での伝え方にも工夫を
もちろん銀行への定期的な訪問は欠かせない。経理担当の役員を置いている場合でも、できる限り経営者が同伴して、自ら銀行からの耳の痛い指摘なども聞き、理解しようとする姿勢が必要だ。そうした姿勢が、例えば会社の発展段階に応じて必要な組織改革をタイミング良く施せることにつながっていくものとして、銀行から好印象で捉えられる。
さて、その銀行へはできれば事前に自社の経営計画書を渡しておくことも大切だ。そして、訪問の際にも報告書内に記載のある損益計画の当月、累計、粗利益、人件費などの会社の実績を数字で伝える。百万言を要しても、数字で伝える方が何より信頼性を持って受け止められる。逆に言うと、銀行は数字を使って話すことのできる経営者を評価する。経営者の説得力は小手先のテクニックで誤魔化せるようなものではないのだ。
数字の報告の後は、経営計画書に基づいた会社の現況、今後の事業計画、トピックス、他行の融資状況などの報告だ。この時、ポイントになるのは「悪い話しを先に、良い話しは後にする」ということだろう。話す順番次第で相手の心証を良くしたり悪くすることもできる。ケースバイケースだろうが、「人は最後に聞いた話が最も印象に残るもの」とも伝えられる。伝え方など細部に工夫をすることも決して疎かにできないものだ。