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精一杯の笑顔で対応
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が引き起こした影響が多くの業種、企業の業績にダメージを与えている今だからこそ、「感謝する心」を持つことが大切なのだと思わせられる。先日利用した商店街の中の飲食店ではテーブルの間隔を広くとって営業をしていた。きっと採算的には苦しいだろうに、従業員は精一杯の笑顔のサービスでもてなしてくれ、サービスの原点を見せられたように感じた。たとえ心の中は先行き不安でいっぱいだったとしても、やせ我慢であっても、わざわざ来店してくれた顧客に精一杯向き合ってくれたその姿勢が素直に嬉しかった。
こうした苦しい時にこそ、毎日の仕事に際して本当に感謝する心を持っているかどうかが試される。正直に言うと、私も愚痴は口に出やすいが、なかなか置かれた状況次第では周囲に感謝できるほど人は良くない。ともすれば人を羨んだり、自分の苦しさを新型コロナウイルスや他人のせいにしがちだ。しかし、そんな人ほどコロナ禍の前を起こしてみよう。現在置かれている苦しさが普段の中に原因があって、ただそれが新型コロナの感染拡大がたまたまその原因を大きくしたに過ぎなかったりするものだ。だから、現在置かれている状況をすべて誰かのせいにするのでなく、もう一度商売の原点に戻るきっかけにするように努めなければならない。
商売をいちから見直す機会に
とはいえ、現実は厳しい。店をたたんだという貼り紙を見るにつけ、他人事ではないと思う。なかなかコロナ禍から商売が元の状態に戻らないようであれば、ここはひとつもう一度商品やサービスのあり方をいちから見直してはどうだろう。そんな試みをしている起業家にも実際にお会いした。この方はITコンサルタントを業にしておられるが、以前から計画していた起業のタイミングとコロナ禍の時期が重なってしまった。最悪のタイミングといって良い。案の定、当てにしていた顧客には逃げられ、いきなりわずかながら抱えている従業員の日々の給料の支払いにも四苦八苦する羽目に陥ってしまった。
毎日必死で仕事のきっかけを探す中、ある別のコンサルタント会社から業務提携の話が持ち掛けられた。提携を持ち掛けた会社ではちょうど中小企業のIT対応に力を入れたいと考えていたところで、会社の既存の顧客や営業力も利用して、業務提携によって得られた新しい商品、サービスを一緒に販売する。お互いにWin-Winの関係を目指すという。しかし、もともとITコンサルタントとして起業した方にしてみれば、起業してすぐの事業修正に抵抗もあったはず。事態の悪化はそんなことを言っていられないほどだったのかもしれない。
感謝で運を呼び寄せる
両者とも前向きに話し合った結果、今では短時間で提携をまとめることができ、互いに新たなサービスの販売に乗り出している。結果まではまだ出ていないようだが、このような前向きな姿勢が続く限り、仮にうまくいかなくても、いずれ第二弾、第三弾の対策が続くことになるだろう。コロナ禍という不運はあったが、もともと計画通りに事業が発展することなどほとんどあり得ないことを考えると、むしろコロナ禍が結んだ縁に感謝しこそすれ、不運を嘆くには当たらないのかもしれない。このように運を呼び寄せるには、まず感謝する心を忘れずに持ち続けることだ。
私が時々伺う高野山の寺には以下の言葉が掲げられている。
「運の付く人は人相が良い。明るい。あたたかい。人を責めない。はつらつとしている。感謝、早起き、明朗。」
「明朗でない人は、心に雑物が入っている。嫌な思い、憎しみ、苦しみ、これらを取り除くには、心を最初から整理する必要がある。」
「最初に親への恩、感謝意識。親への恩、感謝意識がある人は、人を大切にする。ない人は利害で人と付き合う。」
「命の恩を感じる。父と母の目で感じる。願いに対して、どれだけ応えたか。」
「父が素っ頓狂なことを言っても、『はい』と答えろ!」
苦しい時ほど試される
これらの言葉にとくに解説は不要だろう。起業家だからということではなく、そもそも人として感謝する習慣を身に付けなければ、誰からも相手にはされない。まして起業家なら感謝する心を持つことは当然のことといえる。礼儀と同様にビジネスの基本といっても良いぐらいだ。厳しいようだが、それを忙しさやたまたま苦境に陥ったからといって、心が押しつぶされそうになって基本を忘れるようでは人として弱いと言わざるを得ない。起業家ともなれば顧客はもちろん、従業員を始め周囲の取引先などもその一挙手一投足を見ているわけだから、苦しい時ほどそのことを心しておかねばならない。
先のITコンサルタントへ提携を持ち掛けたコンサルタントも、わずかな時間で提携の話をまとめることができたのは、もちろん提携を持ち掛けた側もそれを必要としていたということがあるが、何よりこのITコンサルタントから苦しい時も周囲を思いやる心を感じることができ、多少の問題があってもこの企業となら一緒に乗り越えて、大きな成果を得ることができるかもしれないと考えたからだという。さらに、「仮に事業提携がうまくいかなかったとしても、気持ち良く仕事ができそうだ」と直感したことが大きかったそうだ。感謝する心はコストなしで大きなリターンを生むことができる術でもあったのだ。