【目次】
難しい差別化
スマホ一つあれば今の時代、消費者はたくさんの情報を手に入れられる。以前なら社内で教えられた通りに自社商品やサービスの売り込みを図っていれば、ある程度成果を得ることができたものも、下手をすれば消費者の方がその商品やサービスの競合を含めた周辺の情報に詳しいことがある。その挙句の果ては価格競争に陥るのだが、それを避けるには、競合との差別化を図ることが緊急課題になってくる。しかし、容易に差別化なんて実現できるのであれば誰も悩むことはない。仮に他社にはない商品やサービスを提供できたとしても、その情報はすぐに広まり真似されてしまったりする。
私も含めての話だが、よく部外者が商品開発や販促のアドバイスをするとき、「強みは何だったのか振り返りましょう」「強みを発見しましょう」といったことを言うのだが、アドバイスを受ける側の本音としては、「そんなに簡単に強みなんて見つからない」「強みなんて分かっている(分かったつもりでいる)が、それを具体的にどう生かすかが分からない」とかで、悩みは深まるばかりだったりする。もちろん、強みを見つめ直すことは大切なのは言うまでもないことだが、ここはひとつ視点を変えて、差別化に焦点を当てるのでなく、自社(自分)独自のストーリーを作ることを考えてみてはどうだろう。
顧客が“本当に”求めているもの
似たような商品やサービスがたくさんあって、消費者はそれらの情報を容易に得ることができるため、結局どの商品やサービスを選べばよいのか、困惑しているのが現実だ。例えば、私が今購入を実際に検討している自転車の場合でも、店やインターネット上には「デザイン性」「低衝撃性」「操作性」などいろいろと異なる機能のものが並べられていて、どの会社も同じようなことを訴えているので、私は何を基準に選ぼうかと迷ってしまう。そうこうしているうちに、新たにまた新しい機能のついたものが出てくるので、私はますます混乱していくといった案配だ。
そもそも、私が自転車を通じて夢に見ているのは、目的地に速く着くということではなく、子どもやその仲間と一緒に幸せに家の近くをサイクリングすることだ。私はどんな選択をすればそれが実現できるかで、自転車の選択を行っている。でも幸せなサイクリングとはどういうものかは、人によってさまざまだ。お金に余裕のある人なら、見た目が格好の良い、色もカラフルな自転車でサイクリングスーツと自転車をそろえたいと思う人もいるだろう。ある程度年配の方であれば、そんなことより電動アシスト付きの自転車が良いと考えるかもしれない。私はそのいずれでもなく、コスパを考えて、普段は通勤などの仕事にも使えるような自転車を探している。
どんな夢を支援していくのか
このように幸せの捉え方は人それぞれだ。そして消費者自身も、自分たちにとって幸せに暮らしていくためにどんな選択をするのが一番なのかに迷っている。そしてそこにプロとしてのアドバイスを求めているのだ。私が、そして仲間がいつまでもサイクリングを通じて幸せに暮らしていけるため、私の気付いていない問題を解決してくれたり、夢を広げていってくれたりしてくれる“良い”提案を求めている。それは商品やサービスが持つさまざまな機能の前提にあるものだ。
だから商品やサービスを提供する側としては、自社(自分)がそれらの提供を通じて何をしたいのか、社会にどんな価値、役割を実現しようとしているのかを考え、それを消費者にアピールするのが効果的だ。「共感マーケティング」という言葉があるが、まさにそのことを指す。自社(自分)の考えることは、世の中たくさんの会社(人)がいても、その会社(人)の数だけいろんな考え方がある。仮に他社(他人)の考えを真似ようとしても、そんな頭の中にあるものを真似ることはできない。言葉による表現を真似たとしても、結果として現れたものを見れば違いは自ずと明らかになる。
まず自社(自分)のファンになってもらう
自社(自分)は、顧客のどのような問題を解決するために存在しているのか、その考えは過去のどのような出来事、体験から生まれてきたのか、そして顧客のどんな問題を解決して、どんな未来を提供したいと考えているのかをストーリーにできたら、自らも楽しくはないだろうか。顧客にも自社(自分)の考えを理解してもらうことによって、経営者や従業員の人柄までも感じることができ、心の扉を開けてもらうことができる。自社(自分)の商品やサービスを売り込むのはそれからだ。それらの特徴を訴えるより先に、価値観や考え方を伝えることが大切なのだ。
そして、その考えに共感してもらうことができれば、「こんな風な考えを持っている会社(個人)にお世話になれば、自分も幸せになれるのではないか」と思い、その会社(個人)の話を聞いてみたいと思うようになる。今はそれが逆になっていて、先に自社(自分)の商品やサービスの強みや他社との違いをアピールすることに終始していないだろうか。自分の身に照らしてみても、そんなことをされても“売り込まれ感”が強まるばかりで、警戒心を抱かせてしまいかねない。消費者ニーズが激しく変化する時代にあっては、価格や商品で選ばれるより、まず自社(自分)の考えに賛同してもらい、ファンになってもらうことがますます効率的でもある。