【目次】
営業に求められる4つのステップ
この時期、新入社員や春の人事異動で不慣れな営業活動に戸惑っている方も多いだろう。余裕のある会社なら、「慣れるまでの数か月は気にしなくていい」と太っ腹なところを見せてくれるかもしれないが、それでもなかなか成績が上がらない本人の立場からすれば、気になるだろう。同じ営業を経験していた転職者であっても、売る対象が変わったり、売り物が同じであっても環境が変わるだけで成績が上下する厳しい世界だ。最近では低価格品であれば顧客が自らネットで購入できる環境にあるため、営業マンの真価が問われるのは高級品に伴う商談にまつわることが多い。
その悩みを解決する一つの方法に「SPIN営業術」というのがある。1995年にイギリスのニール・ラッカム氏が考案した営業の時の話術で、日本でも大きな反響を呼んだ。今でもその信奉者は多い。この営業術で大きな柱となるのが、次の4つの質問ステップだ。まず一つ目が「状況質問(Situation Questions)」。見込み客の現状に関する事実を見つけ出す質問のことだ。二つ目が「問題質問(Problem Questions)」。これは見込み客が抱える問題点や不満を聞き出す質問。三つ目が「示唆質問(Implication Questions)」。見込み客が抱える問題の与える影響や結果についての質問。そして、四つ目が「解決質問(Need-payoff Questions)」。見込み客から提案された解決策の価値や効用に関する質問。
制約につなげる質問の順番
まず一つ目の「状況質問(Situation Questions)」だが、ここでの質問例としては、「現在はどんな商品をお使いですか?」「どのような流れで仕事をされておられるのでしょうか?」などが該当する。場合によっては、「何人で作業しておられるのですか?」とか「その過程における管理者はどの程度の技能をお持ちなのでしょうか?」といったような、内部の事情に深く関わるような質問が必要になる場合もある。そのような相手の懐を探るような質問をいきなり投げかけるのはいくら何でも唐突過ぎるので、この第一の質問の前にその質問を出しやすいような雰囲気を作っておく必要がある。
そして、一つ目の質問で現状の顧客の様子が分かったら、それに対して見込み客が感じている問題はないかを「問題質問(Problem Questions)」で聞いていく。「現在の商品の機能に満足されていますか?」とか、「それだとランニングコストがかかりすぎるのではありませんか?」など。ここで大切なのは、見込み客が「今のところ何の問題もないです」と話すのを鵜呑みにしないことだ。その見込み客が感じていなくても、商品やサービスを売る側(つまりそのことに関するプロの目)から見て、「あれはどうなっているのだろう」「あの商品ならここが弱点のはずだ」といった疑問点が思い浮かぶはずだ。そして、それは何よりある程度準備しておくこともできる。そうした観点があるということを見込み客に示唆するのも、信頼関係の構築に役立つ。
問題解決へのモチベーションを高める
ここまでに見込み客の抱える問題が分かったら、「示唆質問(Implication Questions)」でその問題がどのような影響や結果を及ぼすのかを自覚してもらうようにする。「その問題はあなたにどのような影響を及ぼしていますか(及ぼす可能性がありますか)?」。ここで効果的なキーワードにあるのが、「時間がかかりすぎる」「他の部署に負担がかかる」「仕事のムダにつながる」「コストが高い」「顧客の信頼に関わる」といった言葉だ。逆に言うと、これらのキーワードにつながる問題が潜んでいないかを、前の質問であぶり出しておくことが求められる。
そして、最後の「解決質問(Need-payoff Questions)」で、「なぜその問題を解決することが重要なのか」について認識してもらう。そして、それが自社の商品やサービスを利用することで可能なことを理解してもらうのだ。あくまで見込み客自身の口から問題解決のメリットやそれによる利益を語ってもらうことが大切だ。そうすることで、問題解決に対するモチベ―ションが高くなり、自社の商品やサービスの成約が高くなる。例えば、「○○の問題が解決できればどんな良い結果が得られるでしょう?」「弊社の○○であれば○○な解決が可能ですが、いかがでしょうか?」などといった具合だ。
顕在ニーズと潜在ニーズ
大切なのは見込み客の「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」を意識して扱っているかどうかだ。改めて言うまでもなく、顕在ニーズは強い欲求や欲望で自覚されているニーズのことを指し、潜在ニースはまだ見込み客自身にも明確に意識されていないニーズのことを指す。特に大きな商談になればなるほど、この潜在ニーズを顕在ニーズに育てるプロセスが大切になってくるとされる。もともと潜在ニーズは見込み客の中では最初、ちょっとした不満であることが多く、中にはそれにさえ気づいていないこともある。これを実は大きな問題であると認識してもらい、最終的に顕在ニーズにしていく。
それができるまで三つ目の「示唆質問(Implication Questions)」と最後の「解決質問(Need-payoff Questions)」を繰り返すことになる。二つ目の「問題質問(Problem Questions)」で顕在化している問題だけを取り上げるだけで済むなら、比較的それは容易だろう。しかし、例えば「確かに使いづらいなあ」といったこちらからの指摘で出た不満であっても、その使いづらさが仕事にどんな影響を与えるのか、それが担当者のどのような不満につながっているのかが分かることで、一見どうでも良いと思われそうな不満が、実はとんでもない問題を引き起こす可能性があると分かることがある。その結果、より成約に導きやすくなるのだ。