【目次】
営業マンの準備不足
私は普段、自宅を事務所代わりにして仕事をしている。そういうわけだから、日中も自宅にいることが多い。そうするといろいろな営業マンが訪れてくる。仕事が忙しければその旨を伝えて帰ってもらうのだが、時間が空いている時などは、私も物好きな方で何か自分の仕事の参考になるかもしれないと考えて、話に付き合うことも多い。そうするとその営業マンの話の仕方で、仕事のできる人かそうでないかが分かることが多い。
我が家を訪れる営業マンは大きく分けて2種類ある。個人宛に来る飛び込み営業の方と、私の会社宛に来る営業の方だ。私の会社に営業をかける目的でくる人の場合、特に看板を掲げているわけでないため、事前にここにこんな会社があるということを調べて来ることになる。しかし、話を始めると、まったく何をしている会社か内容を知らないで来る営業マンがいる。社名と住所だけで飛び込み営業をしているようだ。“強者(つわもの)”ということもできようが、あまりに無謀すぎる。せめてどんな業種か、社員は何名ぐらいの会社かくらい調べておかないと、話の切り出し方も分からないだろう。
仕事のできる営業マンとできない営業マン
それがその会社の営業の仕方なのかもしれないが、案の定、「最近の日経平均は大分回復してきましたね」といった当たり障りのない話しかできない。話の切り出し方としては無難かなと感じても、こっちが、「そうだね」と言えば、その話はそれで終わりである。次に「御社の景気はどうですか」と聞いてこられて、「まあまあです」と答えると、それもそれで終わり。その後もどうでもいいような話が続いてから、「実はわが社では○○を扱っていまして…」といった売り込みになり、「関心ないね」と答えても、時間ギリギリまでその商品やサービスの良さを一方的にまくし立てて帰っていくだけだ。
個人宛の営業であっても、時間があれば、「30分だけ」といったように断りを入れて話を聞くことがある。先日も若い男の証券会社の営業の方が来られた。この時も「30分だけ」話を聞くことにしたのだが、ずっとその男の方は、ご自身のことと何故か上司の悪口ばかりに話が終始し、25分も過ぎて私が時計を気にし始めた頃になって、ようやく「株の運用に興味はありませんか」ときた。なかなかに残念な営業の方だった。
そうかと思えば、同じように日経平均の話を初めても、私が個人で事業をしていることを知り、業績好調な会社を相手にしていることを聞き出すと、そんな会社にお勧めの商品があると話し出して、私からの紹介先を引き出していった営業マンもいる。
雑談にもある狙い
これはつまり、雑談が雑談に終わっているのか、それとも雑談に狙いを持たせてきちんと商談に結び付けているのかどうかの違いだろう。もちろん、特に初対面の人には最初から仕事の話など持っていきようがないから雑談も必要なのだろうが、その雑談が行き当たりばったりになっていないだろうか。私も何十年か前の出来の良くない新入社員の頃、先輩社員から言われたことがあった。「雑談はスムーズにその日の本題に入るようにするためのもの。だからちゃんと狙いを持ってしないとダメだ。決して雑談だからといって、“雑”にしていると仕事にならないことに気をつけなさい」。
その雑談には一般的に以下のような5つの狙いがあるとされている。
まず一つ目は「互いの信頼の構築」だ。特に相手が初対面の人であったり、知り合ってまだ間のない人であったりした場合、これから仕事を任せられる人なのか、一緒に仕事をしていきたい人なのかといった好意を持てるかどうかが大切になる。
二つ目は「情報収集」だ。相手と正面からまともに話し合っているだけではなかなか掴みにくい情報というのはある。例えば、仕事を進める上でのキーマンは誰か、どこにボトネックがあるのか、いろいろ課題はあってもその順位はどうなっているのか、中でも優先課題となるのは何なのか、などだ。
本題に入るための助走をつける
三つ目は、前からの仕事や気になっていることからの「気分転換」。心が別のところに囚われていると、話の本題にまともに向き合うことができない。
四つ目は、「肯定的な状況」を作り出すこと。いわば本題に入るための助走をここで作っていく。前向きでやる気が十分に高まってくると、「イエス」と思える気分で本題に入ることができる。
最後の五つ目は「刷り込み」。ちょっと高等な技になるかもしれないが、本題で伝えたい趣旨を事前に認識させることだ。これができれば本題への理解が進み、少なくとも「何をしにここへ来たのか」と言われないようになる。
いかがだろうか。雑談といえどもバカにはできない。雑談の持つ力を知ると同時に、再度自身を振り返ってみてはいかがだろうか。「自分のする雑談にはちゃんと狙いはあるだろうか」と。雑な雑談をしているようだと、それこそ顧客への2回目の訪問のチャンスを確実に失っていると思った方が良いのではないだろうか。