【目次】
情報発信の時代
いろいろな企業を訪問させてもらっていると、謙遜もあるだろうが、「文章を書くのが苦手で…」という人が多いのに驚く。中には時間さえあって、慣れればすぐに上手な文章が書けるのではないかと思わせる人もいるが、その気がないのか、「それは私の仕事ではない」とばかりに文章を書こうとしない。でもそれはとてももったいない気がする。特にSNSが全盛となり、個人でも情報を発信できる時代に、黙っていることはない。「黙る、黙らないは個人(企業)の自由」と孤高を決め、それでも仕事が成り立つならそれで良いのだが、なかなかそんな姿勢で今の時代、やっていくのは難しいのではないか。
とは言っても、何でもかんでも書けば良いというものでもないのは確かだ。何か情報発信をしなければということで、その日食べた朝ご飯や、仕事帰りに立ち寄った居酒屋の写真をSNSに投稿する人もいるが、それがどれだけ仕事に役立っているのか私は知らない。私が知っている人で一人、その人はWebページを作成している個人事業主の方だが、自分の飼っている犬の写真をfacebookに2~3日に1回という、私から見てかなり頻繁な割合で投稿していて(私にはどれも同じような写真に見えるのだが)、「それが案外新規ユーザーの開拓につながっているんですよ」と打ち明けられた例がある。その話す様子から見ても、満更嘘でもなさそうだ。
誇れることを書く
まあ、その犬の写真は置いておくとして、文章を投稿しようとするとき、話を聞いていると、「文章を書くのが苦手」に並んで一番の障害になっているのが、「何を書いてよいのか分からない」というものだ。お断りしておくが、決して他人のことを書くのでなく、自分の仕事、自分の企業について書こうとする時の話である。ひょっとして、いざ何か書こうとしてパソコンの前に座った時に、いろいろなことが頭に浮かび過ぎて、何から手を付けて良いのか整理できなくなるのかもしれない。そうでなければ、私がアドバイスさせていただくのは、自分がユーザーに誇れるものを分かりやすく書いてください、ということに尽きる。
中には、普段そんなことを意識しないでいるために、「そんなことを急に言われても…」という反応を示す方もおられるが、仕事をする上で意識する、しないに関わらず皆さん当然誇るものをお持ちのはずだ。同業他社と比べて何がウリなのかを思いつかない場合は、ユーザーに直接聞いてみれば良い。「何故ウチとお付き合いいただいているのですか」と。ある企業がユーザーにそれを聞いた時、「そりゃ、いちいち細かいことを言わなくても、こちらの要望を分かってもらっていると思うからお願いしているんじゃないか」との返事が返ってきた例があった。以来、その企業では「細かいところにも手が届く」ことをサービスにうたうようになっている。
絞り込むことも必要
訴えるべきポイントが分かればしめたものだ。中には、そのポイントが多すぎて絞り込めないという方(企業)もいる。そんな場合は、それらに順番を付けてもらう。一つの企業、一つの商品に売り込みのポイントがいくつもあるというのは稀である。もしいくつも出てきたら、同じようなことを言っているものがないか再考すべきだ。いくつも特徴があるということを書いたところで、それを伝えたい人(企業)が最初から最後までご丁寧に読んでくれることなんてまずないだろう。絞られたものを伝えるから、相手にも感動を持って受けてもらえるのだ。
私が私のユーザーの企業や商品の特徴を文章にしようとして一番困るのも一見、私が訴えたいと思える、愛せそうなところが見つからない時だ。対象に対して、愛がないままに書かねばならない時ほど辛いことはない。しかし、幸いなことにこれまでそんなことはほとんどなかった。何故なら先ほどの例にも挙げたように、個々の企業にはユーザーが必ずいるわけで、そのユーザーがその企業を頼っている現実があるからだ。そこに何かメリットがなければユーザーがいるはずがない。大抵、お話以外にも周辺の話や関連資料などを当たっていると、「ここは凄い」というポイントが見つかる。そして、それが見つかれば、その部分を徹底的に深く掘っていく。そして、それを全力で伝える。それだけだ。
基本は守る
文章の書き方講座などで、時々「起・承・転・結」の基本に沿わなくて良いような指導をしていることがある。それどころか、「型通り書いてはいけない」と堂々と述べたものまである。しかし、私個人の考えなのだが、それは間違っていると思う。あくまで基本は押さえた上で、あえて異なることを試みるというのなら話は違ってくるが、そうでないなら「起・承・転・結」を守るのが無難だ。必ずしもそれに沿った結果になっていなくても、書く際に意識していれば、それなりのものはできる。却って変な小細工をすると何が何だか分からない文章が出来上がる確率の方が高くなる。
他人に自分(企業)を伝える時、その伝えたい特徴を強調したいあまりに、他社をけなしたり、貶めるのも感心しない。商品で時々見かける比較広告にしても、相手の商品に絶対に失ってはならないのは「敬意」であると言われる。文章だって同じことだ。自社の良さを訴える時にも、周囲に敬意を払うことをしなければ、逆に誰もそんな企業に対して敬意を払って読んではくれないものだ。結論として、愛と敬意、これらが文章の中心を流れていれば、書かれる文章は意味のあるものになり、決して読まれて恥ずかしいものにはならないとさえ思っている。