【目次】
多様な働き方に対応したオフィスデザインへ
今日、オフィス空間は様相を一変しつつある。「働き方改革」の影響もあって、ベンチャー企業のみならず、老舗の企業も率先して新たなデザインの試みに乗り出している。例えば社員の席は固定の席から個々に決められた席を持たない“フリーアドレス制”へ、そして、休憩できるスペースを広くとったり、植栽を増やしたりといった具合だ。それは見た目以上に、“ペーパーレス化”や固定電話の廃止を伴うなど、それぞれの企業の仕事の進め方に踏み込んだ問題であるはずだが、ある中小のオフィスデザインに詳しい設計会社は、見た目にこだわる企業も多く、「失敗例」もかなりあるという。
今日のオフィスデザインを変更するきっかけになっているのは、「多様な働き方」への対応だ。従来の監視しやすいデスクの配置、トップダウンになりがちな密室の会議室、仕事に集中させるためだけのレイアウトは、現在推進されている働き方にとっては機能しづらいものになっている。例えば新型コロナウイルスの流行も思わぬ後押しとなっているテレワークにしても、「仕事はオフィスに出勤して行うべき」という概念を一変させた。そして、どうしても出勤の必要のある人には、生産性を「自然に上げる」場所として、コミュニケーションを取りやすい環境が求められている。
カフェスペースや集中ブースなど
中小のオフィスに今、求められているデザイン例とはどのようなものかその一端を探ると、まず社員が気軽に集まることのできるスペースの確保がある。中にはそれをカフェスペースとしても利用できるように工夫している例もある。ミーティングやちょっとした相談などはカフェとも兼用できる自由な雰囲気の中で行うことで、集中とリラックスの双方のバランスが取れ、込み入った話し合いも予定通り進むのだとされる。
コミュニケーション重視でオフィス全体をあまりオープンにしすぎると、仕事に集中したい人の気が散ってしまうということにもなりかねない。そこで、基本的なレイアウトはオープンにしつつも、上記の例とは逆に集中ブースやコーナーを作る例もある。どこで仕事をしても良いというルールにすれば、基本は自分のデスクを持ちつつコミュニケーションを取りながら仕事をし、集中したい時には集中ブースに移動することもできる。
従来では部署ごとにデスクが分かれ、窓際に上司が座ることがほぼ定番とされてきたが、最近の“フリーアドレス制”の導入で、デスクの配置は島型ではなく、上司の席もないといったことも起こっている。上司も部下に混じって仕事をすることで部下と距離が近くなり、部下にとっても気負うことなく、必要なところで“報連相”ができるというメリットがあるのだという。
見栄えだけを重視しない
上記に掲げただけでも、オフィスのデザインを考える際には、それぞれの企業の働き方や仕事の進め方に対する考えが大きく影響することが分かる。人手確保につながりやすいからということで、見栄えから入る企業があることは本末転倒であることが納得できるのではないだろうか。「見栄え」という意味では、最近あまり目標数字や個人の成績を壁に貼り出したり、天井から吊るしているオフィスに出会うことが少なくなったように思うがどうだろう。確かに、あまりに貼り出しものが多いと、中で働く社員だけでなく、来客に対しても雑然としたイメージを与えて良くないかもしれない。
だからといって、おしゃれなオフィスデザインに合わすためか、注意喚起の貼り紙1枚ないオフィスも何だか違和感がある。その目的とするのは、多分「ストレスのない居心地の良さ」あたりになるのだろう。確かにそんな会社で働きたいと思う人も多いのだろうが、逆に、そこまでスッキリした、格好の良いオフィスで、毎日モチベーション高く仕事に就くことができるかを考えると、私などはちょっと心もとない気がする。やはり、それは「適度に」それぞれにあるオフィスのルールを知らせることで、気を引き締め、毎日のミスを防ぐことになるのではないだろうか。
どんなオフィスでも基本になること
これからのオフィスデザインを考えるのは、それぞれの仕事のあり方を考える上でも楽しい。しかし、どんなデザインにしても、基本になるのは仕事に携わる人それぞれの整理整頓だろう。デスク周りー今日だとパソコンの中の情報もーがきれいに整理されていると、それだけで毎日スムーズに仕事に取り掛かることができ、ミスなども少なくなる。オフィスはアーティストで言えばライブステージ、スポーツ選手であれば、それぞれの試合を行う会場と同じだ。自分たちを演出する大切な場所に、普段自分たちが使っている道具を散らかして平気なアーティストやスポーツ選手がどこにいるだろうか。仮にいたとすれば、それは「プロ失格」と言わざるを得ない。
朝、オフィスに着いたら、きちんとした会社ならまず周囲の掃除や整理整頓から始めるのが当たり前だ。清掃業者が入っているとしても、一人ひとりのデスクの上まで掃除はしていないはずだ。オフィスだから仮に掃除や整理整頓に手を抜いても、それが直接自分の命に係わることはまずないだろう。しかし、「これが製造現場だったら、建設現場だったらどうなるだろう」という程度の想像力ぐらいは欲しい。掃除や整理整頓のために必要な時間など数分程度でしかないはずだ。オフィスの未来を考えるより先に、まず自分の身の回りの整理から始めよう。