危機感が足りない?

昨今、SDGsという言葉をしばしば耳にするようになった。のみならず、企業を訪問したり、街中を歩いていても、背広の襟に丸いドーナツ状で虹色のSDGsのバッチを付けているビジネスマン・ウーマンを目にすることが多くなった。ブームを思わせる感もあるが、まだまだ中小企業や個人事業主などには縁遠く感じておられる方も多いのではないだろうか。しかし、結論から申し上げると、SDGsへの取り組みなしでは企業として立ち行かなくなる日がもう目の前に来ようとしている。企業の中にはその危機感が今一つ足りないのではないだろうか。

改めてSDGsとは何かからお話しすると、これは「Sustainable Development Goals」の略で、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」を指す。そこでは貧困や飢餓、エネルギーや気候変動の問題など、幅広い社会問題に対する17の目標と、それを具体化した169のターゲットが掲げられており、2030年の達成が目指されている。

そんな風に言えば決まって、日々自社の経営問題と向き合っている経営者の方からは、「せいぜい大企業が抱えるべき問題で、中小企業や個人事業主には関係ないでしょう」という反応が返ってくるのだが、例えば児童労働の問題を取り上げても、途上国における大手企業の下請け、孫請け企業で行われていたことが、先進国の間で社会問題として取り上げられる時代なのだ。

身近なSDGs

だから危機感を持つ大企業は、下請けや孫請け企業でさえもトレースして社会問題化するような取り組みがないか、それを防ぐことに必死になっている。仮にSDGsに反するようなことがあると、それだけで最悪、取引中止ということだってありうる。逆に、ここは前向きに自社がどんなに小さくても、SDGsに取り組んでいることを積極的に訴えることで、取引を有利に進めることだってできるかもしれない。でもそれを有利な材料にするには、取り組みは早いに越したことはない。競合が取り組むようになってからでは、「自社も取り組んでいます」といくら声を張り上げても、「そんなことは当たり前」といって無視されるのがオチだ。

本来ならそんな目先の利益より、世界が直面する深刻な危機を克服しない限り、企業の長期的な発展もあり得ないという基本的な認識を持たねばならないところだ。例えば、日本だけを見ても、昨年台風による甚大な被害を受けたように、年々自然災害によって人々の生活や社会活動が脅かされることが増えている。また、人口の減少は急速に進んでいて、国内市場の縮小、労働力不足などの問題は日々痛感されているところだろう。それに伴い、社員の健康管理や女性の活躍を促すための労働環境の整備は急務となっている。売れ残った食品を大量に廃棄することは、環境問題だけでなく、倫理上からも社会からのバッシングは避けられない。

まずは理解を深め、重要課題の選出を

国連がSDGsの前身であるMDGs(Millennium Development Goals)を提唱した時の目標数はまだ8つ、ターゲットは21に留まっていた。それが一気に増えているのは、いかに世界が直面する問題が広範囲に渡り深刻化しているかの現れだ。投資家の動向にも変化が見られる。横文字ばかりで恐縮だが、世界の投資家が重視しているESG投資がそれだ。これは環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Government)に配慮している企業を重視・選別して行う投資のこと。ESG評価の高い企業は事業の社会的意義、成長の持続性など優れた企業特性を持つと判断され、資金調達も優位に進めることができる。

しかし、肝心なのはこのSDGsをどのようにして経営に取り込むかということだ。それには以下の4つのステップが参考になるかもしれない。まず一つ目は、自社の業務とSDGsの17の目標を紐づけて、その相関関係を考えてみることだ。そうして始めてSDGsへの理解も深まる。二つ目は、SDGsの達成期限である2030年までの重要課題の選定と、リスク、ビジネス機会の洗い出しを行うことだ。例えば、ある家庭用品メーカーは、経営にとっての重要度と社会的な重要度の2つの点から、同社の掲げる課題をマッピングしていき、そこから重要度の高いものを優先的に取り組むようにしている。

非財務情報の開示で消費者を味方に

三つ目は、優先課題を決定したら、取り組みの進捗状況を確認するための指標を作らねばならない。例えばある食品メーカーは、「子供たちがさらに健康な生活を送れるようにするための支援」を優先課題の一つに掲げ、その進捗状況を示す指標の例として、「乳児、子供、妊娠中や出産後の女性向けの栄養のある新製品の開発」「研究開発の投資」を上げた。

そして最後の四つ目は、経営への報告とコミュニケーションだ。SDGsへの取り組みは企業単体で行うのでは効果が限られる。企業のステークホルダーとも連携を取るために、自社のウェブサイトや各種報告などを通じて、自社の方針や実際の取り組みを情報開示し、対話のきっかけを作ることが有効に働く。消費者や投資家の意識の高まりは、おそらく経営者が考えているより上を行く。財務情報だけでなくこうした「非財務情報」の開示は、今後ますます重要性を増してくるものと考えられる。

何よりあくまでも社会あっての事業活動であることをこれからは忘れてはならない。社会への貢献というと、自己満足、独りよがりな活動に留まることも多いが、「三方良しの経営(売り手、買い手、社会の三方に利をもたらすのが良い経営という意)」という言葉があるように、昔からの教訓を現在に生かすということでもある程度実現できる。肩肘張らずにまずは一歩を踏み出していきたい。

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