【目次】
人と行動をずらすことで得られるメリット
個人で仕事をしていることのメリットの一つは、自分で時間の使い方をどうにでも調整できるところにある。サラリーマンとして働いていた時のように、毎朝決められた時間に出社する必要もないし、部内外の調整のための会議の時間を気にする必要もない。朝早く目覚めてしまったときには、前日の仕事の続きをすることもあるし、午後仕事をする気力が無くなったときには、そのまま仕事を止めてしまうこともよくある。
そして、それは外で仕事の約束が入った場合でも同じだ。車で移動する際は、「高速を使うまでもないな」と判断すれば、わざわざ高速料金を払わずに、多少時間がかかっても下道を使う。場合によっては、そのために時間をずらして移動することもある。朝夕の時間帯などは特に通勤の人たちともぶつかって大渋滞に巻き込まれることが大いに予想される。だから、時間を「ずらす」ことで競争を避けるのだ。
電車での移動でも同じことだ。朝夕の満員電車が嫌だから座席を確保するために、朝早く家を出る人は多いだろうが、約束の時間次第だが、逆に遅く出ることも可能だ。ランチの時間も同様。人とずらすことで楽に取ることができる。
自然界でも「ずらす」ことが大切な生きる術
この「人とずらす」ことがとても仕事の効率を上げることになっているのだが、これは何も私が考えたことではない。今はまだ肌寒い季節だが、駅までの道のりを歩いていても、すでに花を咲かせている野の花がある。他の花に先駆けてこの時期にいち早く花を咲かせることも、自然界における「ずらす」戦略の1つだ。暖かくなるのを待っていれば、さまざまな草花が花を咲かせる。野の花々は受粉を行うために花粉を運ぶ昆虫を呼び寄せる。暖かな春になると活動する昆虫も多くなるが、ライバルとなる花もまた多い。すると目立たない小さな花では、なかなか昆虫に来てもらうことが難しくなる。
しかし、この早春に咲くと言っても、それがなかなか難しいことなのだということを先日、大学で植物学を教えておられる先生からお話をうかがった。普通、安全に冬越しをする方法は、ヘビやカエルがするように、種子で土の中に眠ることなのだそうだ。しかし、早春に咲く植物は、寒い冬の間も地面の上に葉を広げている。寒風に耐えながらに霜に萎れながら、それでも葉を広げている。こうして冬の間も光合成を行い、しっかりとエネルギーを蓄える。そして、春が近づき他の植物の種子が土の中で目覚めるころ、冬の間も葉を広げていた草花は蓄えていた栄養分を使って一気に成長し、花を咲かすのだという。
「ずらす」ことをビジネスでも利用
「ずらす」と言えば「逃げる」とも捉えられ聞こえは悪いかもしれないが、天敵やライバルのいる場所や時間帯を避けて、強者のいないところを選ぶという戦略が有効なことは、植物だけでなく動物の世界でも同じだ。例えば、「夜行性」と呼ばれる動物がいるのもそれだ。夜に活動することのメリットの一つは、夜間は天敵が少ないということ。もちろん、単に昼から夜にずらすというだけで、リスクがまったく無くなるわけでもないだろうが、それでも昼間と比べれば比較的危険は少ないとは言える。
昆虫の中にも夜行性の種類は多い。天敵となる鳥類のほとんどが昼間に活動をしているから、夜に活動をすれば鳥の目から逃れることができる。「夜の蝶」という言葉があるが、実際にチョウチョの中にも、夜に活動をするものがあって、それが「ガ」なのだそうだ。だからといって、人間の世界の「夜の蝶」を「ガ」呼ばわりしたら大変な目に合うこと必定だから要注意。閑話休題。要するに、生物の世界では「群れる」「隠れる」などと合わせて、「ずらす」ことも生きるために大切な戦略なのだということだ。それをビジネスにも活かさない手はない。
レッドオーシャンの中で少しずつずらしていく
ビジネスの世界で競争のない未開拓市場「ブルーオーシャン」をいきなり探すといっても、なかなか今日、そんな世界を見つけることは難しい。しかし、競争の激しい「レッドオーシャン」を避けるということなら、いろいろな工夫が生まれそうと感じられないだろうか。自分の業界で「当たり前」とされていることのうち、何かを「減らす」、「取り除く」ことはできないだろうか。逆に特定の機能を「増やす」、「付け加える」のはどうだろう。前者は「低コスト化」、後者では「高付加価値化」につながり、いずれも既存市場との差別化につながる第一歩にすることができる。
そもそも戦略的にブルーオーシャンを目指すというのは、考えただけでも難しい。運良くブルーオーシャン市場が見つかったとしても、それに見合った製品やサービス作りに手間、コスト、時間がかかるだけでなく、それを顧客に知ってもらって、良さを納得してもらって、購入してもらう必要がある。これを特に小規模事業者がやろうとしても大きな壁となって立ちはだかることは目に見えている。それなら明らかに今需要があることが見込まれている「レッドオーシャン」の市場で的を少しずらしていく方がずっと現実的なように思ったりする。