社内にスナック

もう死語と化しているのかと思っていた「スナック」が若者の間で見直されてきているといわれる。「本当かな」と半信半疑だった私も、先日、会社の中に「スナック」を開店しているという中小企業を訪問して、実際にカウンター前に並べられたキープボトルの列を見て驚いた。「ママ」を務めるのはその時々に集まるメンバーの中から自然と名乗りがあるようだが、それが社長の奥様だったりすることもあるらしい。いずれにしても、カウンター越しという距離感、そして、公私の関係なく若者の悩みの相談に応じているところが若者の受けが良い秘訣のようだ。

実はその中小企業の社長は、今の若者を見ていて「非常に危惧するところが大きい」と嘆いている。毎年名の通った大学の学生を就職の面接で見てきているが、「これが大学生のレベルかと思うほど、”甘え”がひどい」という。「質問は給料や休日、残業時間といった条件のことばかりで、自分が何をしたいのか、この会社で何ができるのかといった積極的な話がない」というのだ。それならということで、「むしろ高卒の採用にも力を入れて、社会や仕事のイロハから忌憚のない話し合いをすることで、人として育って欲しい」という想いで社内スナックを設けた。

カウンター越しの距離感

いわば社長の若手従業員に対する教育の場として始まったスナック。「そんなスナック、誰も怖がって近寄らないでしょう」と水を向けると、あに図らんや、これが案外好評なのだそうだ。最も社長自身の評価によるものなので、どれほどかは定かではないが。しかし、その社長曰く、「公私とも腹を割って話し合うところが良いのではないか。特に今の若手ともなると我が子同然。彼らの中には親にも叱られたことがないという子もいるから、私が話すことも新鮮にとらえられるようだ」と笑いながら話すが、私が見るところ、この社長に酒が入ると相当強烈なインパクトを与えることになるだろう。

その中小企業が特別かと思っていると、先日、社内の一角にこれも文字透り「スナック」を設けた上場企業がテレビで紹介されていた。これをその企業では会議室と同様、「コミュニケーションの場」として活用しているのだという。会議室や社員食堂とは違って、先ほど同様、カウンター越しというのがちょうど良い距離感を保てるのと、薄暗い雰囲気も緊張感をほぐすのにちょうど良い感じなのだそうだ。場合によってはリクルート活動にも利用しているようで、「カウンター越しの面接」では学生の側もせっかく事前に用意してきた答えも役に立たないのに違いない。

街中でも増える若者と女性客

もちろん、酒の飲めない社員にはオレンジジュースなどのノンアルコールも用意しているのだそうだ。同じ社内であっても、部署が違ったりするとなかなか話す機会はないものだが、同社のスナックに来ると「会う約束がなくても誰かが必ずいる。ここでは肩書きは関係なく、これまでつながりの無かった人とも自然に話せる機会を得ることができる」とその若手男子社員は話していた。社内で設けられている部活動と同じような感覚なのかもしれない。

街中でもスナックは今、若者たちの間で見直されているという。そもそもスナックは前回東京開催されたオリンピックの時に生まれたとされており、中高年の間には企業が接待費を使ってカラオケなどをするところというイメージがあるかもしれない。しかし、バブルがはじけ、その支払いも企業から徐々に自腹化するに従って、最盛期には全国で20万件以上あったとされていた数も、最近では15万件程度まで減ってきていた。こうした中で最近目立って増えてきたのが若者と女性客だとされる。一説によると、「若い女性がスナックで働くようになって若いママも増えたので、若者や女子がカラオケやデートに利用しやすくなったからでは」とされる。

スナック型コミュニケーションを活かす

SNS上のつながりとも通じると思われるのは、スナックでの客同士の関係はしがらみが少ないところともされる。何しろ名前さえ知らなくても、酒を媒介に互いに話し合うことができるのだから。こうしたスナック回帰の動きを受けて、「婚活スナック」「コワーキングスナック」「アイドルがママのスナック」「介護スナック」など様々なタイプのスナックが生まれてきている。例えば、ある「介護スナック」の例では、介助者以外65歳未満は入店お断りで、看護師がホステスで客に何か異変が起きた時にもそのまま対応できる。客はこの店に来るのが楽しみでリハビリを頑張るきっかけにできているといった様子だ。

自宅、職場に続く、第3の場としてスナックが見直されている傾向を、もっと企業の側が活かしても面白いかもしれない。「最近の若者は飲まないから」「そもそも世代の異なるもの同士、誘っても迷惑なだけだろう」と紋切り型の考えで納得しているのでなく、「コミュニケーションを求めるのはどの時代の、どの世代でも同じ」と思い直して、新しい試みを仕掛けていけば、案外意外なほど打ち解けたりするものだ。若者も心の底ではそれを待っているのではないだろうか。

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