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健康経営の要
社員食堂の存在意義が高まっている。社員食堂はもともと事業所の近隣に飲食店がなかったり、事業所が広大だったり、セキュリティーの関係などの理由で業務中に社外に出ることが困難な場合に設けられることが多かった。また、福利厚生施設としての見地から、休憩室や談話室、社内行事の場としての性格を持たせることも多い。しかし、最近では健康経営に力を入れる企業も増え、勤めている社員などの健康管理面をサポートする場としての役割に焦点が当てられるようになっている。社員の健康は企業が持続的に発展する上で重要な要素であり、今後も健康経営の一環として社員食堂を充実させる動きは増えそうだ。
アシックスは2019年日本栄養改善学会などによるコンソーシアムが実施する「スマートミール」の認証を受けた。スマートミールとは健康に役立つ要素を含む栄養バランスのとれた食事の通称。その基準は厚生労働省の「生活習慣簿府予防その他の健康増進を目的として提供する食事の目安」や「食事摂取基準」を基本として決められている。ちなみに、エネルギー摂取量は一食当たり450~650Kカロリー未満の「ちゃんと」と、650~850Kカロリーの「しっかり」の2段階に分かれ、料理の組み合わせの目安も「主食+主菜+副菜」と「主食+副食(主菜、副菜)」の2パターンに分かれている。
ICチップで管理
そのアシックスの食堂では、エネルギー摂取量や料理の組み合わせ、食塩相当量などの基準を満たし、主食、主菜、副菜の栄養バランスが取れた食事を提供していることが評価された。同社の食堂では1年の内4か月間は健康診断の結果を基に保健師や栄養管理士が考案した健康メニューが登場する。ICチップを搭載した社員証を読み取り機にかざすと、個人の栄養摂取状況を管理することができるのだという。スマートミールを食べるなど一定の基準を満たした社員には、コーヒー券がプレゼントされるなど、社員の健康意識の向上にもつなげている。
大日本印刷は栄養女子大学の学食をアレンジした「女子栄養大ランチ」を2012年から社員食堂で提供している。以前の健康メニューは社員の間での選択率が5%程度と低く、新食堂の開設に合わせてメニューを刷新した。その結果、選択率は現時点で約16%まで高まり、リピーターも多いという。このランチのメニューは日替わりで、鶏肉の揚げ物や油で揚げない豚カツなどが人気なのだそうだ。副菜や具だくさんの味噌汁で不足しがちな野菜を補い、噛み応えのある胚芽米で満腹感を得やすくしているのだそうだ。
商品化にも応用
SCSKは社員食堂でサラダやおかずなどを1グラム1.2円で提供する「グラムデリ」を用意している。グラムデリとは要するに量り売りのこと。約20品目から選ぶバイキング形式で、社員がその日の気分に合わせて好きな量を皿に盛ることができる。同社の社員食堂では日替わり定食だけでも5種類あるほか、どんぶり、カレー、パスタ、ラーメンなども毎日2種類を提供するなど多彩なメニューを特徴にしているが、グラムデリが一番人気だそうで、食堂利用者の4分の1が手にするという。これまでに挙げた企業に共通するのは、健康経営をまず社員の食事から実現していくという思いだ。
こうした社員向けの健康メニューの開発を商品として利用していく取り組みも進められている。化粧品・健康食品メーカーのファンケルがそうだ。同社の社員食堂「ファンケル学べる健康レストラン」のランチメニューはおいしさと健康の両立を持ち前にする。塩分を2グラム前後に抑え、脂質をコントロールしながら、食物繊維など1日に必要な栄養素を満たしている。レストランの開設は青汁や発芽米といった自社商品の経営資源を活かせないかと考えたのがきっかけ。ランチは1日当たり平均300食を提供。食堂ではモニターでメニューに含まれる栄養を示す工夫も行っている。今後、社員向け健康メニューの開発を通じ、減塩調味料などの商品化にも積極的に取り組んでいくという。
社員食堂が一般客も受け入れ
中には社員食堂の評判が上々で、一般客にも提供を始めたロート製薬のような例もある。同社が運営するレストラン「旬穀旬菜(しゅんこくしゅんさい)カフェ」では季節の野菜をふんだんに使った薬膳ランチが食べられる。社員に健康的な食事を楽しんでもらおうとの想いで始められた取り組みだったが、料理の評判が上々で今では一般客にも提供を始めている。一汁三菜(主菜と副菜2種)に玄米ご飯か白飯が付く日替わり御膳が人気で、限定10食の薬膳カレーも複数の香辛料が深い味わいを出している。いずれも「国際薬膳師」の資格を持つスタッフによるオリジナルメニューで、季節ごとの体のコンディションを整えられる野菜を使うことを心掛けているのだそうだ。
実は社員食堂は社員の福利厚生の中でも非常に人気のあるものの1つとされている。求人広告でも「社員食堂あり」と記載することで、応募者を増やすことができるという。確かに値段も安く抑えているところが多く社員の懐にも優しいし、社員同士のコミュニケーションを図る場としても利用されている実態から社員の満足度向上にもつながる。それに加えて今回のような健康経営の要としての役割が加わることで今後注目度はさらにアップしていくことだろう。