【目次】
勘に頼る経営にさようなら
大阪市内にある中小企業が先日創業70周年の記念事業を行った。創業70周年というのは、戦後しばらくして世の中が戦後の混乱期からそろそろ落ち着いてきつつある頃に創業したということで、この企業以外にも70周年をそろそろ迎えたとか、迎えるという企業は多い。その間幾多の困難な時期をも乗り越えて今日を迎えたということはそれだけで慶賀に堪えないが、その企業が同じ記念事業の席の後で、全国決起集会を開いたという。社長に話を伺うと、「70周年を迎える頃から売り上げが徐々に頭打ちになっていたため、営業マンのやる気を促すために」行ったというのだ。
この社長は2代目ですでに社長に就任されてからも約20年会社を引っ張ってきておられる。だから理屈では説明できないような「野生の勘」もお持ちで、晴れやかな記念行事の陰にどこか気の弛みのようなものを感じたのかもしれない。それはそれで敬服に値するのだが、いつもいつも勘に頼った経営ばかりしているわけにはいかない。この社長のような「売り上げが頭打ちになっている=気の弛みがある」としていると、「偏見」とばかり、今の時代だと社員にそっぽを向かれたり、辞められたりしないとも限らない。だから、この社長の場合は例外としても、特にオーナー社長にあっては自分自身を客観視して、コントロールしていく必要がある。
自分を書き出す
自分の思考を他人のように眺めることを「メタ認知」と呼ぶそうだ。私もお金があればビジネスコーチングを頼んで常に自分自身を見つめ直す機会を得たいと思ってはいるが、言い訳にはなるが、まだまだそれが許される状況ではない。そこで、自分自身で自分を客観視できる方法はないものかと探ってみた。
まず、自分について書き出してみることで自分自身を見つめてみるという方法が挙げられる。一番分かっているようで分かっていないのが自分。実際のカウンセリングでも、本人によって一番気づきの多いのが、自分自身について話をしている時だといわれる。自分のもやもやした思いを他人に分かるように話をしているうちに、「自分はこんなことを考えていたのか」と気づかされた時はなかっただろうか。これは先輩が後輩に営業や技術のスキルを教えているうちに、却って自分の方が勉強になっているのと似ている。私も人前でしゃべっている時に、「我ながらいいことをいうなあ」と思う瞬間がたまにだがあるが(苦笑)、普段感覚的に思っていることを口に出すことで、自分自身で気づきを得ることができるのだ。その効果をさらに一層引き出すために、書くのである。
他人の視点を借りる
2つ目は他人の視点を借りるという方法だ。
ディベートで「悪魔の代弁者」というのがある。多数派に対してあえて批判や反論をする人を指す。ディベートのテクニックの一つとして、ディベートする場が同調圧力などで自由な意見や反論が通りにくくなるのを防ぐために、その役割を担った人をわざわざ設けることで、新たな視点を見つけるということを狙いにする。みんなが賛成するアイデアや意見は、一見良さそうにも見えるが、そこにいる参加者全員が同じ視点からして見ておらず、思いもよらぬ盲点があったりするものだ。
また、「このままでは老後の資金として500万円しか手元に残らないことになります」などと現実の深刻さをつきつける保険会社の営業の方の言葉に、ハッとさせられた経験を持つのは私だけではないだろう。先の企業と同年代の創業者にしても、戦争中に身近な人が次々に亡くなっていくのを見て、今の私たちが抱きがちな「いつか起業する」という漠然とした目標が、「明日には起業できないかもしれない」という現実に突き動かされたという話を多く聞く。今なら、将来の事業プランを示し、それを人に見せることで得られるメリットは限りなく大きいというべきだろう。
心理状態をフレームワークで判断する
もう一つ、最後に心理カウンセラーが用いているストレスレベルを知るプレームワークを利用するという方法がある。これはストレスのレベルによって陥るとされる人の心理状態を、レベル1から4に分けて判断できるようにしている。
これによると人の心理状態は症状が軽い方から、レベル1は「いらいら」、レベル2は「怒り」。レベル3は「絶望感」、レベル4は「うつ」となって現れるとされている。例えば、「今日はなぜかしらイライラする」と感じる時は、「今自分はレベル1の軽いストレス状態にあるな」と判断できるし、怒りから絶望感を感じるようになっていれば、「これはレベル3だから無理してでも休んだ方が良さそうだ」となる。
多くの場合、自分を成長させるヒントは、自分がその通りだと思っていることではなく、自分では「それは間違っている」「それは納得できない」と思っている情報の中にあるといわれる。企業の成長にもそれは当てはまる。ひょっとしたら、今、外注に出しているものの中にこそ競争力の源泉となるものが含まれているかもしれない。そうした問いかけを常に自身にかけながら、お互いに「正しい」判断で新年も逞しく成長していきましょう。