【目次】
同じ目的を目指さなくていい
時々仕事の場で、「強いチームにするために全員が同じ目標に向かって取り組んでいる」と話すリーダーの方がおられるが、これは2つの点で間違っている。1つは「目標」と「目的」の使い方が間違っていること。この時の話し手の意図は「同じ目標」でなく「同じ目的」という意味で使っているものと思われる。「同じ目標」に向かって取り組んでいるのは当たり前で、例えば、今期の目標として「○○円の売り上げを達成する」とあるのは、チームとして動くのであればそれを共有しておくのは当たり前の話だ。それを取り立てて「強いチーム」の条件とするには当たらない。
そして、これが2つ目の間違いに挙げるところなのだが、本当に「同じ目的」に向かって取り組むのが、強いチームに求められる必須の条件なのだろうか、ということだ。「目的」というのは、いわばモチベーションに等しいものだと考えている。そう考えると、私の仕事の目的と、隣に座っている同僚の目的が同じなんてあり得ない。もちろん、同じであっても何ら構わないのだが、それが違っているからと言って「強いチーム」になれないなんてことにはならないだろう。早い話、私が職場の仲間のために働くとして、隣の人が自分の家族のために働いていてもまったく構わないのだ。
働く目的は人それぞれ
採用難の時代だという。就職先を探している人の中には、それこそ今日、明日にも働いて生活費を稼ぎたいというような切羽詰まった人もいるだろうが、多少余裕を持って職を探している人も多いのではないだろうか。実は私も職にあぶれていた過去を持っていて、職安に随分お世話になったこともある。周りを見ていると、何をするでもない、ただそこに通うことが目的のような人もおられた。その職安で見た求人情報はことごとく給与や休日などの条件面の提示がほとんどで(当時の話です)、職場の雰囲気やどんな人が仕事をしているのかなど、本当に私の知りたいことはほとんどなかったように記憶する。
職安だけではない。新聞の折り込みなどに入っている求人募集の案内などを見ても、ほとんど同じような内容だ。でも本当にそれで人は集まっているのだろうか。求職者の立場から見て、ここで働きたいと心を動かされるだろうか。私が思うのは、それがどんな仕事であっても、(医者や看護婦、「士業」と呼ばれるような職業は別だろうが)仕事の作業そのものに目的があって「働きたい」と思う人はほとんどいないのではないだろうか。例えば、スーパーのレジの募集でも、「レジ打ちがしたい」と思って応募するのでなく、「友達がいるから」「彼(彼女)ができそう」「何となく楽しそう」とかの期待感で入ってくるのではないだろうか。
チームの目的に合うように調整する
「事務員を募集しているのに、そこで楽しさを求めるなんてけしからん」と思われる方もおられるかもしれないが、それぞれの目的はどうであれ、要はその個人の目的がチームの目的に合うように調整してやれば良いのである。例えば、ダイエットが目的で入社したのなら、ある程度力仕事が伴うような仕事が合うかもしれない。会計を勉強したいと思っているなら、経理の仕事を手伝ってもらえば良いのではないか。その方が、今の時代が求める「ダイバーシティー」に沿った考え方でもあるとも思う。しかし、当然、「締めるところは締めないと」ただの烏合の衆の集まりにしかならないので、そこは要注意だ。
何より「チームの目的」を共有するだけでなく、それを完遂するために必要なルールは守ってもらう必要がある。「では自由にやってください」では統率が取れなくなってしまう。職場では「私語は厳禁」とか、チームの目的がお客様に貢献することであれば、「それを害するいかなる行動も認めない」であるとか、事業の根幹に関わることは守ってもらう。当たり前のことのように思われがちだが、しばしばそれは善意で行動している人によっても犯される。「善意でやったことだから、あまりうるさく言うのは止めておこう」というような時が、いわゆる「脇が甘い」とされる状況だ。これまでの企業の相次ぐ不祥事もこれがきっかけだったことが多い。
嫌われることを怖がってはいけない
リーダーなら、「チームを上手くまとめることは、人から好かれることではない」ことを心に銘記しなければならない。時々、人から嫌われることを怖がっているリーダーがおられるが、それを怖れてチームの統率が取れなくなると本末転倒だ。リーダーの中には、仕事が終わってプライベートな時間でもつながりを求められるままに付き合ったりして、とても周囲に気を配っている人がいるが、それはストレスが溜まるだけだから止めよう。無理をして好かれようとしなくても、自分が一生懸命に働いている姿を見せると、「一緒に頑張りたい」と思ってくれる人たちが現れるはずだ。そうやって、一緒に頑張ろうとしてくれる人たちとともに、目的に向かって邁進すればいい。
たとえ自分がリーダーであっても、自分の目的とチームの目的が異なってもいい。無理に同じにしても、かえってメンバーにとって分かりづらくなり、チームの団結も弱くなる。リーダー自身の目的は、自身の胸の中に秘めておくか、別にチームの「理念」などのような形で示しておけばいいのだ。