【目次】
怒りは判断を狂わせる
「アンガーマネジメント」という言葉をご存じだろうか。イライラや怒りといった感情をコントロールすることとされる。アメリカでは1970年代から心理教育として浸透してきている。特に人の感情の中でも最も強い怒りは、それを正しくコントロールする技術を身に着けておくことが、すでにスポーツ界では常識になりつつあるという。
人間はポジティブな精神状態を保っていると、視野が広がり、全体の状況を踏まえて的確な判断に基づく行動ができるとされるのに、怒りはネガティブな心理状態をもたらし、そのネガティブな心理状態は視野を狭くさせ、冷静な判断力を失わせて誤った行動に出がちだとされる。スポーツ中継を見ていると、そのことを裏付けるように、選手の怒りから失点を重ねてしまうということが多くある。ワンプレーごとの戦略的な駆け引きが試合の帰趨を決めるとされるアメリカンフットボールでは、そのような事情から特にアンガーマネジメントが重用されているといわれる。
しかし、事はそれだけでは治まらない。怒りはプレーしている最中に暴力的な行為を生む原因となり、この暴力的な行為がファンの心理を冷えさせて選手としての寿命も短くし、チームの存続も危うくさせるーこんなことまで発展することも予想できる。
オーナー経営者は要注意
企業の経営者にも「短気」「怒りっぽい」「感情的」などと形容される方はたくさんおられる。確かに、怒りのコントロールはそう簡単なものではないが、特に組織の中で「遠慮」ということの必要がないオーナー経営者は、つくづく意識をして気を付けていないとその落とし穴にはまりかねない。自らの責任感に加え、立場も強いが故に、怒りがネガティブな精神状態をもたらし、冷静さを欠いて判断を誤るというリスクを、人一倍背負っているとされる。この怒りを経営者はどのようにコントロールすれば良いのだろう。
怒りのピークは最初の6秒といわれる。この6秒という説にはいろいろとあるようだが、要は怒りのピークはそう長く続くものではなく、ピークが過ぎるまでの短い間をゆっくりと数えると効果があるとされる。それさえやり過ごすことができれば、冷静さを取り戻せるそうだ。しかし本当に怒っている最中はそんな数を数えるような余裕はないだろう。怒っているときにこのことを思い出しゆっくり数字を数えている状況は、すでに怒りをある程度コントロールできていると考えて良いのかもしれない。
マインドフルネスの有効性
この怒りのピークを過ごすまでの間、「マインドフルネス」が有効とされる。最近、いろいろな企業が研修に取り入れているということで話題になっており、お聞きになられた方も多いだろう。これは雑念を持たずリラックスして「今ここに、ただ集中している心のあり方」を指すそうだ。スポーツ選手がよく「ゾーンに入った」という言い方をするが、その状態に近いといわれる。
普段の私たちはそんなマインドフルネスな状態とは程遠いところにいるとされる。逆に1日に処理すべき情報量は増え、なかなか心休まる時間を持てずにいて、あれこれ考えすぎている状態にある。マインドフルネスとは、そんな精神状態を意識的に改善していこうとするもの。日本人なら古くから禅やヨガなどでおなじみの瞑想を使うことで、集中力を高め、ストレスを解消し、洞察力や直観力を高めるとされる。
しかし、大切なことは決して怒りを我慢することではないとされる。怒りを我慢することは良くないのだという。なぜなら、怒りは我慢したところで解決されたことにはなっていないので、ずっと相手を恨んだままになっていたりするからだ。そして、目の前にいら立つ相手がいなくても、イライラしたり不安になったりすることが常態化することで心身の健康に悪い影響を与える。
「YOU」から「I」メッセージへ
ここは怒りをうまく相手に伝える工夫が必要だ。この時、怒りの背後にある恐れや悲しみといった感情に目を向ける必要も出てくる。
仕事がうまくできなかった部下に「バカヤロー」と怒りをぶつけるとき、そこで主語になっているのは「YOU」である。要するに、「あなたが失敗したからだ」「あなたが悪い」「なぜうまくいきそうにないとき、あなたは事前に教えてくれなかったのか」と「YOU」を中心に考えている。これを「I」メッセージに代えるのがポイントだそうだ。「私はあなたのとった行動を残念に思っている」「私は今回のことを悲しく思っている」という風に、自分が気付いた感情に集中するのだ。
そして、相手も怒っている時は、相手の話をとにかく聞くことが有効だそうだ。この時ただ聞くのでなく、「傾聴」するということだ。つまり、相手に関心を持ち、相手を理解したいと思って、批判やアドバイスをせずに耳を傾けて相手の言葉などを聞くことが基本となる。なかなか難しいことかもしれないが、自分だけでなく相手もマインドフルネスな状態に導くことで、建設的な話し合いができるようになる。
こうして何よりアンガーマネジメントは影響力を持ったオーナー経営者が実践することで、企業全体に及ぼす雰囲気なども大きく変えることができる。