【目次】
感動を呼んだツイート
自然災害が年々拡大している。今年も「過去最大級」とされた台風19号が東海、関東、東北地方を中心に、各地に甚大な被害を及ぼしたばかりだ。激しく降り注いだ雨は河川を氾濫させ、堤防を決壊し、家屋を飲み込んだ。鉄道やバスはストップし、街中の商店は営業が立ち行かなくなった。お亡くなりになられた方のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様の一日も早い原状復帰、回復を心より祈念いたします。そんな中で、三重県のあるパチンコ店のツイートが注目された。
ツイートを投稿したのは三重県にある「キング観光サウザンド近鉄四日市店」。原文のまま紹介すると、「浸水が心配で車を停めさせて欲しいとの、お電話が入っております。当店は立体駐車場なので、ご自由にお使いください。また、帰宅が困難な方もご利用頂けるようシャッターは開けたまま帰ります。お困りの際の避難場所として認知して頂けたらと思います。ご無理なさらず、ご利用ください」。
ツイートには、「立駐をご利用の方へ」と書かれた案内画像も添付された。画像にはトイレの場所や利用ルールなどが書かれている。このツイートを機に、同ホールの系列店舗でも立体駐車場の開放がアナウンスされたという。
企業も貢献する防災機能
街の防災拠点としてコンビニが取り上げられることはよくある。日本フランチャイズチェーン協会でも「社会インフラとしてのコンビニエンスストア宣言」において、「環境にやさしいコンビニエンスストア」「まちの安全・安心」「地域経済の活性化」「消費者の利便性向上」を目標に、39の自治体と災害時帰宅困難者支援協定を締結している。今それが逆に、24時間営業の見直しのネックにもなっているところでもあるが、それはそれとして、一つの企業、店舗の社会における存在意義を改めて教えてくれる。私たちの街を守っているのは交番や警察署、消防署、役所などの公共の施設だけではないのだ。
イオンは東日本大震災以降、店舗の地震安全対策や防災拠点化などに取り組んでおり、施設における安全・安心対策を強化するため、2020年度までに100か所の防災拠点を整備することにしている。防災拠点の整備とは、災害発生時に一時避難所や救援・救護スペースの提供、食品売り場の提供、災害発生直後から早期の店舗・施設の営業再開ができるように自家発電設備などのエネルギー供給体制の確保など幅広い。「大手だからできるんだ」との指摘も確かにあるだろうが、大手でなくてもできることがあるのは、先のパチンコ店が示している。
企業もソフト面で工夫できることは多い
日本は昔から多様な自然災害と向き合ってきた。それはユーラシア大陸と太平洋に挟まれた火山帯に位置し、地形、地質、気象、地理的に極めて厳しい条件下に置かれていることによるものだ。近年それが急激なシステム化・ネットワーク化の進展や、温暖化の影響にもよる異常気象などにより、自然災害による猛威が増し、そのことによる被害もますます拡大している。被害が起きてから、「自然の猛威が想定外の規模だった」と繰り返すだけでは、自然と人間のいたちごっこはいつまで経っても収まらない。これまでのハード中心の対策に加え、私たち一人ひとりができる、いわばソフト面でできることを考えなければならない。
その第一はまず自分の身を守ることだろうが、これを読んで下さっているのが起業家の方が多いと思われるのでその立場に立つなら、自分の身を守ることに加え、自分の事業の継続を図ることだろうか。不可抗力とはいえ自然災害に合っても顧客にその影響をできるだけ及ぼさないことが、その企業に対する安心、信頼になる。逆に、どんなことがあっても顧客に迷惑をかけないことが、その企業にとっての最低限の責任だ。そうした観点から、離れた地域で仕事をしている個人企業同士が、いざというときには互いにフォローしあう関係を築こうとする試みも始められている。
小さな動きの積み重ねが災害に強い街をつくる
フリーのデザイナーで活躍するA氏は兵庫県に在住し、普段は阪神エリアで仕事をしている。しかし、もともと阪神大震災を経験していたA氏は、かねてより懇意にしているB氏がB氏の故郷の埼玉県で同じ仕事を始めたのを機に「災害時協定」を結んだ。これは一端どちらかが災害その他で事業の継続が危ぶまれる恐れに陥った時、相手からの要望により速やかに事業を引き継ぐというもの。普段はそれぞれに独立して仕事をしているが、互いに気心を知り合っていることが、こうした協力を可能にした。A氏のもとには従業員が3人いて、将来それぞれの故郷で独立する際は、同様の関係を構築したいという。
地域社会とのつながりが深い大阪の中小企業は倉庫業を営んでおり、一昨年に倉庫を立て直してから以降、年に2回、地域の住民とともに防災避難訓練を実施している。そこでは地域住民のための避難場所とともに、非常食の備蓄も行っているという。その担当者は、「この地域の住民の一人として受け入れられることで事業も継続できる」とその狙いを話す。決して派手な活動ではなくても、こうした小さな動きの積み重ねが災害に強い街をつくる。そしてそんな企業を持つことが、地域の誇りにもなっているのだ。