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人事評価制度の見直しで生産性アップ
「なかなか利益が出なくて」「売り上げは何とか確保できても儲けが・・・」といった悩みを持つ企業も多いだろう。実際、このところたとえ増収を達成しても減益となる企業が多い。そんな時、解決策として思い浮かぶのはやはり売り上げの一層の拡大を図るか、余分な経費をそぎ落とすかといったところになるのが普通だ。しかし、売り上げの拡大といっても、今の時代そう簡単にいくわけでもなく、余分な経費といっても、すでに絞れるだけ絞った後のぞうきんのようになっている経費の、どこにこれ以上見直す余地があるのか。なかなか簡単に解決できそうにはない。
そんな中、人事評価制度を見直すことで営業利益を約2.5倍、経常利益に至っては約4倍の好業績を上げた中小企業が千葉県にある。この企業は関東を中心に自社農場以外にも委託農場を100箇所近く管理し、年間20万頭の肉豚を販売している。原種豚、繁殖から肥育、飼料、環境の4つにこだわった豚肉を主力商品としており、より品質を高めた豚肉を消費者に提供するべく事業改革を進めているところだ。
やったことへの「正しい」評価を追求
一般にありがちな人事評価制度は、評価項目を多数そろえていてもその評価基準はあいまいで、5段階評価すれば平均的な評価である「3」が多くなってくるというのが多い。しかも、評価による査定は半年か1年ごとが一般的で、その結果、評価対象者も半年や1年前に自分がどんな目標を設定したのかさえ忘れてしまっていたりする。増して、評価者に至っては半年間、1年間の評価対象者の動きを覚えるわけにもいかず、実際の評価表の作成に当たっては、直前の様子などに左右されがちになってくる。しかもその評価結果が報酬に連動する仕組みがなかったり曖昧だったりすると、「一体何のための評価制度なのか」といった不満に覆われるといったところが多い。
同社でも同じような状況だったが、そのような抽象度の高い曖昧な評価基準から脱却して、綿密に設計された評価項目と毎月1回のミーティングを実施するなど丁寧な運用を心がけた。実際の評価は四半期ごとに1度実施し、しかも真ん中に偏らないように4段階にするなどの工夫をした。この結果、従業員が成果を上げた頑張りに対して「正しく」評価し、還元される好循環なサイクルを確立することができた。そして生産性のアップと業績のアップを実現するに至ったということだ。
運用もカギ
もともと同社は自社農場と委託農場を合わせて100近い農場を各地に抱えていてそれぞれのマネジメントの質もそろっていなかった。それぞれに働く従業員がどのように頑張っているのか、評価するうえでのアピールポイントも正確に把握できていなかった。その結果、良くも悪くも差のつかない評価が下されている状態だったという。従業員の方も、個人の成果が利益につながるイメージを持てないまま業務を粛々と遂行しているような状態だった。これがこの会社の成長を止めていたのだった。
人事評価制度には大きく2つのポイントがあるとされる。一つは持続的に高いモチベーションを持って従業員が働く仕組みであるかどうかというもの。具体的には頑張るべきポイントが整理されて成果が見え、正しく評価されて、それが最終的に正しく給与に還元されるといったサイクルにつながっているかどうかだ。ここがうまくできると、従業員の「承認欲求」が満たされやすくなり、次も頑張ろうという自発的な貢献意欲が生まれる。二つ目はその運用に際して、長期に渡って無理なく運用できる仕組みであるかどうかだ。
幹部の能力も向上
同社の場合、人事評価制度を新しくする際に、事業のKPI(重要業績評価指標)をMBO(目標管理制度)にしっかり組み込んだ。そしてそれを従業員個人の目標につなげたのだ。そうすると、市況に関係なく豚の単価を700円も上げることに成功できた。一人一人のやるべきことが明確になったことも大きな効果だった。それまで管理職が1から10までいちいち指示していた業務を、今では半分以下の指示でスムーズに業務遂行できるようになったという。
また、KPIやMBOとの連動がしっかりしたことで、事業の方針を現場に伝える機会がいやでも増え、従業員とのコミュニケーションの質が向上。それに伴って経営幹部の能力の向上も図られたようだ。幹部に求められるのは企業のビジョンや戦略を理解し、従業員個人の目標に落とし込む力と伝える力であると明確にできた。この力を向上させるために月1回の管理職研修も実現した。今では経営者が一人で悩んでいた時とは違って、「従業員全員による経営」への前進が図られているという。
いかがだろうか。一例を上げただけだが、企業の利益と人事評価制度。なかなかその関係は迂遠なようでいて、その実、的を射るものであったりする。同様にお悩みの企業もぜひ試してみられてはどうだろう。