【目次】
安易に考えるのは間違い
時々「プレスリリースを出せばマスコミに取り上げられるって本当ですか」と聞かれることがある。特に創業間もない方であったり、中小企業の方にとってはなかなか自社の商品やサービスの広告宣伝に出す費用であってもままならないことが多く、「マスコミに取り上げられる」ことはとても魅力的に映るのだろう。しかも、今日では「良いものを安く」提供したところで、それが売れるとは限らない時代だ。たとえそれが広告宣伝を行う費用ではあっても、できるだけ効率的な使い方を追求したいと思うのは自然だ。中には、「私、要するに(マスコミに取り上げられて)有名になりたいんです」とあからさまな方までおられる。
冒頭の質問に対する回答が遅くなったが、その答えは「YES」でもあり、「NO」でもある。何だか禅問答のようになってしまったが、「(それなりの準備をきちんとして)プレスリリースを出せばマスコミに取り上げられる(可能性が高くなる)」というのが正解だろう。プレスリリースをつくることを業務の柱にしている業者の方などは、こんな風に言っては申し訳ないが、プレスリリースをつくって売り上げを上げることが目標になっているので、それがさも簡単なことであるかのようにお話しされているだけだ。ちょっと考えただけも分かるように、「プレスリリースさえ出せばマスコミが自社に代わって宣伝してくれる」なんて虫が良すぎるだろう。
プレスリリースはマスコミへのラブレター
そもそもプレスリリースとは何かからお話しをすると、それはマスコミに対する自社の商品やサービスなどのラブレターのようなものだ。「こんな良い商品ができました」「こんな新しいサービスを始めます」というような話題を提供し、「だから取材をしてください」とお願いするラブレターだ。それがマスコミの目に留まれば、取材を受けて、新聞やテレビなどに掲載・報道されることになる。それを取材するのかしないのか、掲載・報道するのかしないのかの判断はあくまでマスコミ側にある。費用はもちろん無料だ。無料だからダメモトでプレスリリースを出し続ける企業もあるが、やみくもな発行はむしろその企業の信用を傷つける。
プレスリリースで大切なのは、その中味と、つくったプレスリリースをどのマスコミに出すのかというこの2点に集約される。
まず、その中味についてお話しすると、訴えたい内容がどれだけ社会に影響するのかが大切になる。つまり、社会とのつながりだ。「こんなすごい商品(サービス)ができました」というのがあれば分かりやすいのだが、そうそう画期的な商品(サービス)が生まれるとは考えにくい。増して、経営資源の限られる中小企業などにとっては、普通に考えると10年に一度でも「画期的なもの」を生むことができれば超優良企業として表彰されるほどの凄いことだ。
ニュースは身近にある
だから、普通に考えると、つい「我々中小企業にはマスコミは縁遠いもの」と考え勝ちになるが、それも違う。もっと普段のニュースを注意して見て欲しいのだ。秋の台風シーズンにはそれに備えた対策が求められるし、それを過ぎればすぐに年末商戦が控えている。今年の年末に向けて、「私たちはこう考えています」というのはそれだけで立派なニュースになりうる。また、もっと他のニュースにも目を向けると、最近また話題になっている地球温暖化には「こんな対応を図っています」とか、今後ますます深刻化しそうな人手不足の問題について「こんな新たな社内制度を設けました」という動きがニュースのネタになる。
そして、中味が整ったら、次に問題になるのが「そのつくったプレスリリースをどのマスコミに出すのか」ということだ。プレスリリースを慎重につくっても、この問題を安易に考える企業はあまりに多い。言うまでもなく、いくら良い中味のプレスリリースをつくっても、それがマスコミの記者に読まれなければ何の意味もないのに。良くあるパターンとして、「できるだけ数多くのマスコミにそれを届けたい」というものだ。その気持ちは痛いほどよく分かるが、例えばB to Bの商売をしている企業なら、新しい画期的な商品のプレスリリースを一般紙に出すより、業界紙に出した方が効果が大きいことが予想できる。
やはり必要なノウハウと手間
また、「できるだけ多くのマスコミに出す」ことは、マスコミの側に立ってみれば競合紙のA紙にもB紙にも記事が掲載されることにつながるが、これは記者の立場としては「面白くない」ものだ。「プレスリリースはラブレターのようなもの」と言ったが、仮に意中の人であっても自分以外に複数の人にラブレターが出されていたと分かれば、興ざめ以外の何物でもないだろう。それと同じだ。だから、プレスリリースの配信サービスでも、「同時に何十社のマスコミに送る」ことがよく売り文句にされているが、マスコミからすれば鼻白むばかりだ。
また、その送り方もメールで流すだけ、ファックスで流すだけでは記者はほぼ間違いなく読まない。一日に数十本から100本近いプレスリリースを読む記者の立場に立って考えると、そんなことはすぐにご理解いただけることと思う。だから、確実にまず記者に読んでもらうためには、1社ごとに地方であればできるだけ支局に足を運び、東京や大阪といったところでも、電話連絡などを通じてできるだけ記者に会って手渡すぐらいの気持ちでいかないと難しい。要するに、記者に読んでもらって取材を受けるためには、少しのノウハウと多くの手間はかかるということだ。まずそのことは最低でも肝に銘じて、プレスリリースに取り掛かりたい。