【目次】
不要なものでいっぱいの身の回り
自慢にはならないが、かつて私のカバンはとても重かった。いろいろなものが詰まり過ぎていたのだ。仲間内で冗談に、「何が入っているのか」と言われることはあっても、中を改めようとはしなかったのだが、ほんの最近、あまりの重たさに、一大決心をしてカバンの中味を全て取り出してみることにした。中には、髪の毛を梳かす櫛や駅前で配られるティッシュペーパー、お守りなど、「こんなものまで」と思うものや、自分ではすっかり忘れたようなものまで入っていて、改めてその内容に驚いた次第だ。
私の場合、改めて考えてみると、どうしても持ち歩くのに必要なものは、家の鍵、財布、携帯電話、ノート、筆記具に限られる。それのみを常時持ち歩き、カメラ、携帯パソコン、折り畳み傘などの残りのものは、必要に応じてカバンに入れるようにしてみた。そうして見ると、今までいかに惰性で毎日使わないものを入れっぱなしにしてきたかを、思い知らされた。カメラなども、果たして使うのは1週間に1回程度、携帯パソコンに至っては1か月に1回か2回程度ということが分かり、毎日持ち歩かずとも全く困るものではないことに気付いた。と同時に、何だか心や頭の中まで軽くなったように感じて、出歩くのが以前ほど苦痛でなくなった。
必要なものを考えることはいらないものを捨てること
カバンの中をスリム化することに、最初不安があったのは事実だ。「やはり、何かしら不都合が起きるだろう、起きるはずだ」と考えていたのだった。そして「困った時はその時にまた考えればいいかな」とぐらいな気持ちでいたのだが、結果的にはそれでまったく困ることもなかった。これは本当に予想外のことで、外出時にも周りを見て楽しむゆとりも生まれ、いろいろな発見にもつながるメリットも味わっている。この気分を一度味わうと、どうしてもっと早く身軽にならなかったのだろうと後悔したくらいだ。それ以来、外出時には「モノをほとんど持たない」ことに気を使っている。人にもお勧めしているくらいだ。
本当に必要なものを考えることは、結果的にはこのようにいらないものを捨てることにつながる。しかし、この「捨てる」という行為が難しい。世の中で流行っている「断捨離」「整理術」というのも、捨てることが難しいことから起きているのだろう。ものがたくさんあると安心するのは私だけではないのだろう。何が起こるか分からないからだ。ものを取り去ることで大いに心もとない気持ちになる。さらに一度手に入れたものはもったいないという思いもあって、なかなか捨てられなくなってしまう。こうして捨てるというハードルがどんどん高くなってしまうのだ。
整理は優先順位をつけること
お勧めなのが、毎日仕事から帰ったら、カバンの中味をすべて出すことだ。こうすれば入れっぱなしになるDMや雑誌などは確実になくなる。ものを持たないメリットが分かったので、今は次に財布の中、机の上と中、パソコンの中の整理を始めようと思っている。本当は部屋の整理、家の整理へと進めたいのだが、そこに至るにはまだまだ先かなという感じでいる。
カバンを軽くしたくらいで偉そうなことはいえないが、ものの整理の順番としては、1.整理対象のアイテムを並べてみる、2.並べられたアイテムに大切なものから順番をつける、3.いらないものを捨てるとこんな感じになるか。大切なのは、2.の順番をつけるところだ。これができて初めて、捨てるモノが決められるのだ。「これがなかなかできないから苦労するのだ」という声も聞こえてきそうだが、手に取る順番を決めるような感じで、そこは無理矢理にでも優先順位をつけてしまう。例えば、カバンの中味でいえば、今日使うもの、3日後に必要なもの、1週間後に必要なもの…という風に考えていけば、順番も付けやすくなるかもしれない。
モノの整理が思考の整理へ
つい、流されがちなのが、「とりあえずとっておこう」とする考えだ。取り急ぎ必要はないものの、将来いるかもしれないから、捨てずに保管しておけば安心、とばかりに自分を納得させるのは簡単ではあるが、その「将来」というのが、いつまで経っても来ないことがほとんどだ。「とりあえず」という考えを自分に許すと、整理することはできなくなってしまう。最終判断を先送りしていることに等しい。
今、カバンの中の話から始めたが、こんな風に大事なものを見極める習慣をつけることは、少し大げさになるかもしれないが、自分の中の価値観を研ぎ澄ますことでもある。ものの整理をすることに慣れれば、情報の整理もできる。大切な情報を見極め、情報同士の因果関係をクリアにしていくのだ。そして、その先には思考まで整理されていく。何が大切なのか、その視点を絶えず新しくして、優先順位をつけていれば、今まで見えなかったものが見えてきたり、人にインパクトを与える切り口が見つかったり、人に感動を与える新しいポイントが見つかることにつながる。仕事におけるふっと浮かぶ新しいアイデアも、単なる思い付きというわけではなく、普段から頭の中を整理していることで出てくるものなのかもしれない。