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選手の緊張感も可視化
スポーツ観戦の楽しみ方が広がろうとしている。2020年に商用化する第5世代通信(5G)を追い風に、これまで想像するしかなかった選手の緊張度合いや、ゴルフや野球のスイングの速さなどの情報が表示されたり、わざわざ試合会場まで足を運ばなくても臨場感溢れる観戦ができるようになるからだ。すでにその試みは各地で始まっている。2020年といえば東京五輪が開催される年。これを機会に様々なビジネスチャンスにもつながりそうだ。
今年の7月10日、千葉市緑区の平川カントリークラブで開かれる「ひかりTV 4K・FUNAIダブルスゴルフ選手権」は東京のNTTぶららが運営する映像配信サービス「ひかりTV」が独占生中継し、ショットやパットを打つ選手の緊張度合いを可視化する表示を行う(この記事が掲載された頃にはすでに実施されているのかも)。可視化のカギを握るのは、男子プロゴルフ大会の生中継で初めての4K映像だ。選手が映った高精細映像から血管の収縮・拡張による肌の色の変化を分析して、心拍数を推定するのだという。選手の肌に機器を装着するわけではないので、プレーに支障を来すわけではない。ウイニングパットを決める直前の選手の心拍数を見て、視聴者も手に汗を握りながら中継を楽しめる。
選手の目線でVR体験
同じNTTぷららの「ひかりTVイベント」では、卓球のラリーの模様をデータ解析システムで分析する。解析カメラで抽出したボール画像から取得した2次元座標から3次元座標を推定し、ボールの速度、スマッシュ時の1秒当たりの回転数と回転軸を表示した。この解析システムは数万枚に及ぶ画像からボールのマークや影などを認識して、自動で速度や回転数を算出するのだという。
日本サッカー協会(JFA)とキリンホールディングス、KDDIはこの6月、サッカーの日本代表対エルサルバドル代表の試合会場となったひとめぼれスタジアム宮城で、最大100人が同時に仮想現実(VR)体験ができる「VR同時視聴システム」を用いたイベントを開いいた。そこでは試合に臨む前の日本代表のロッカールームの様子、ピッチでのウォーミングアップ、スタジアム入場シーンなどを選手の目線でVR体験した。実際に「12番目の選手」として試合観戦へのモチベーションを高めることができ、参加者からは好評だったことから、主催者側ではテレビ中継の直前にでもこうしたVRコンテンツを家庭でも視聴できるようになれば、視聴者がより感情移入できる仕掛けとなると見ている。
現地の臨場感をそのまま
「デジタルスタジアム」。まだあまり聞いたことのない言葉だろうが、JリーグとNTTはデジタル技術を駆使し、サッカースタジアムの高精細な映像や音声を屋内施設に再現するイベントを5月に開催した。これがデジタルスタジアム。実際のスタジアムの収容人員には限りがあり、人気チームは溢れる需要を抱えてこれまではただ機会損失を招いていた。実際にスタジアムに足を運ばなくても、それに近い臨場感が手軽に楽しめるのであれば、そうした機会損失を埋めることができるだけでなく、障がい者や家族連れなどにも負担を軽減した観戦機会を提供することができる。もちろんそれは主催者側にとっての新たな収益源に期待できるというものだ。
実際、5月に実施されたデジタルスタジアムは、神戸にあるノエビアスタジアムで開催されたサッカーJ1リーグのヴィッセル神戸と鹿島アントラーズの試合を、東京。大手町の高層ビルのホールに設けられた大型スクリーンで観戦した。会場には鹿島サポーターを中心とした約400人がそこに映し出された映像に見入っていた。
映っていたのはスタジアムのピッチ全体を一望できる映像だった。高精細の映像をリアルタイムに圧縮・伝送するNTTの技術「キラリ!」を用いて、4Kカメラ5台で撮影した映像が切れ目がない超ワイド映像に合成し、大手町の会場に伝送していた。天井や床に設置したドルビースピーカー26台による立体音響で、応援席の太鼓の重低音も体に響く。参加者は、正面スタンド上段からピッチを見下ろしているような気分を味わえたと上々の評価。
東京五輪は格好の機会
プロ野球でも新たな観戦の試みは始まっている。ソフトバンクや楽天は運営するプロ野球チームの球場などで、それぞれ今年のシーズンからスマホ決済を採用。加えてソフトバンクはヘッドセットを用いた野球のVR観戦の実証実験も始めている。こうした新たなサービスが東京五輪でも体験できれば、その東京五輪は日本発の観戦サービスを世界に広める格好の機会となる。
それもこれも5Gのサービスが基盤になる。5Gは現行の4GLTEの約100倍の高速通信が可能なほか、「低遅延」「多数端末接続」という特徴を持つ。この特徴を最も生かせるコンテンツの一つがスポーツ観戦というわけだ。今年はラグビーのワールドカップ、来年は東京五輪、再来年はワールドマスターズゲームズ(30歳以上のスポーツ愛好家であれば誰もが参加できる生涯スポーツの国際競技大会)と国内で大型のスポーツイベントが続くこともあって、スポーツ観戦サービスの実証実験が相次いでいる。スポーツ観戦を手始めにビジネスへどのように応用が広がっていくのだろうか、これからが楽しみだ。