一目惚れで採用失敗

人材不足の時代、今、人の採用にはどんな企業でも殊更に気を遣う。しかし、私は気を遣うのが往々にして「人手をいかに確保するか」に絞られていて、その応募者が「どんな人物か」にそれほど気を払うことが無くなっているというか、気を払える状況でないとする雰囲気が覆っていることを危惧している。

ある中堅のシステムエンジニアリング会社の人事担当者と話しをしていて、「中途採用をしていると、今でも応募者に『人目惚れ』することが少なからずある」という話になった。履歴書を見て学歴も経歴もすごい。是非採用したいと思った瞬間から「あばたもえくぼ」に見えてしまうのだそうだ。スキがなく、はきはきした人当たりに魅了されてしまって、本来求めていた能力と少しくらい違うことなど忘れてしまって、とにかく採用してしまうのだという。

「恋は盲目」というが、まったくそれと同じだ。極端な話、財務担当なのに数字に弱いなどとなれば悲惨だ。せっかく新戦力として採用しても、「そんなことは部下に任せておけばよい」となってしまえば、後悔することは目に見えている。あのジャック・ウェルチも「人を採用する時の直感には眉につばをつけなさい。少しでも理屈に合わないところがあれば、深堀りしなさい」と警告を発している。

事業と直観

人の採用の際の直感は当てにできないようだが、一方でジャック・ウェルチは事業の決断に当たっての直感は大変役に立つ、と振り返っている。例えば新規事業についての案件を検討する際にも、どんなに非の打ちどころのなさそうなものであっても、何か引っかかると思ったら止めておくべきだという指摘をしている。

こうした案件は、通常スプレッドシートを使った「事業計画」「投資回収モデル」などが作られ、大したリスクもなく初年度から儲かるような見通しが書きこまれていたりするものだが、結局計画は計画でしかない。もし、その前提条件が1つ、ほんの少しでも変われば、それは例えば成長率が3%から2%に変わっただけでも、結果は大きく変わる。逆に、あまり可能性のなさそうな投資であっても、小さく始めてみることで新しい可能性が開けることは良くあることだろう。

事業計画書などを見る投資家や銀行などはそれなりに分析をするのだが、彼らが実際に経営するわけではない。経営責任を負って本当にこの事業案件に投資をすべきかどうかを自分のこれまでの経験や知識を総動員して考えれば、見るところや感じるところが投資家などと違うことがあるのは当然だろう。

理屈に合えば良いのか

実は私の起業したのも、ほとんど直感といっても言い過ぎではなかった。私の場合、その後の推移を見れば、それが正解だったとは言えないかもしれない。なぜなら、起業した時の事業は結果うまく行かず、その後紆余曲折を経て今に至っているからだ。しかし、創業時にお会いした仲間の中にも、最初から綿密な事業計画書を作ってある程度できることの目途をつけていることの方が、むしろ少数派だったように思う。

直観や勘は私たちの生活で様々な意思決定に関わっている。直観はきちんとした根拠がなく、なんとなくその場の雰囲気で物事を決めることだ。それに関係しない他人にとっては、どうでもいいことだろう。その直観や勘をあえて起業などの際に重要事として取り上げることは経営学にはないことだが、誰も考えもしなかった鋭い意見や大胆な決断をする経営者もそれを「野生の勘」と言ったりする。

人間は無意識のうちにいろいろな情報を吸収し、行動もまた無意識のうちに影響されるとされる。単に直観での選択と、選択理由を説明しなければならない場合の時の選択では、「説明をしなければならない」というプレッシャーで現状を過去の知識に当てはめ、直観では違うと思っていても、過去の知識で説明し易い方を選んでしまうという過ちを犯すともいわれる。

仮説をより良くする努力

だからといって、ここで何でも直観が良いと言いたいわけではない。冒頭の話のように、人材採用に当たっては、むしろ直観に依らない方がいい場合もある。しかし、直観もバカにできないこともあるのは確かだろうということだ。事実、自分の直感を信じずに、「一般的にはこうだ」「専門家はこう言っている」といわれたことに従って、後悔したことはないだろうか。専門家より経験は少なくとも、問題に対して必死に向き合う人間の直感の方が、言葉にならないサインをかぎつける可能性は高いようにも思える。

むしろ、直観によるものかどうかはともかく、事業に必要な仮説は一度立てたらなかなか捨てられないものだ。大切なのはその仮説が直観であろうがなかろうが、「より良く」するための努力を欠かしてはならないということにあるように思う。一端築き上げた仮説が現実に沿わない(結果がでない)場合、それでもそれを基から壊すことはなかなかできなくても、見直して改善していくことならできそうに思えるのではないか。ただ単に直観を信じてそれを固守するだけでは、ただの頑固者と同じだ。趣味ならそれでも良いが、ビジネスとしてならそれは死を待つばかりになる。

より良い仮説を求める姿勢こそが、直観を生かすことにつながるのではないだろうか。

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