多角化は少ない戦力を分散させる

最近ある建設会社を訪問した時の話だ。その社長と名刺交換をすると、その名刺の裏には「木造住宅建設・ビル建設・リフォーム増改築・健康機器・健康食品・レストラン」とあった。従業員は15名。皆さんはこれを見てどんな印象を持つだろうか。「積極的な経営をしている」とプラスの評価を与える人もいるかもしれないが、大半は「一体何をしているのか」と戸惑いを覚えることだろう。有名な格言に「中小企業と屏風は広げると倒れる」というのがある。小さな会社が様々な事業に手を出すことはもちろん、扱う商品を増やすのも要注意だ。

それは扱う事業や商品によって、客層が変われば売り方もまったく変わるからだ。同じ建設事業であっても、木造住宅を建てるのはサラリーマンなどが中心で、商業ビルなら経営者や地主が顧客になる。健康機器や健康食品なら女性や高齢者が中心になる。これを従業員15名がそれぞれ担当してこなさなければならないとすると、1事業当たりに割り当てることのできる従業員数は単純に3で割って5名以下ということになる。同じ屋根の下にいても5名ずつの零細企業グループに分かれているイメージだ。それより15名が一つの事業に集中する方がはるかに効率も良いし、いろいろな工夫もできるので事業として成功しやすいのは明白だ。

見抜かれる思惑

個人事業主であってもよく「何でもします」という宣伝の仕方をする方がおられるが、それは受け取る方から見れば逆効果だ。「何でもしますから、何か仕事をください」と言われても、「何でも屋」はつまり「訴える専門がない」ことを暴露しているに過ぎない。そこまでひどくなくても、事業の数や商品の数を増やしておけば経営が安定すると考え勝ちだが、この事業がダメな時は別の事業で稼ぎ、それでもダメならさらに別な事業でという考え方だと、それぞれの顧客に事業に対する取り組みが中途半端なことを見抜かれるだけだ。そんな会社に誰が発注しようとするだろうか。

実際に、少し古いのだがある調査会社が行った1600社を対象にした調査結果を見ると、本業とまったく関係のない事業に手を広げ過ぎている会社の業績はどこも悪く、倒産率も非常に高くなっていた。起業に当たっても、あれとこれの両方を事業の柱にしていますと紹介される方が時々おられるが、同じことだ。それぞれの客層に指示されるような営業のやり方に特化しないとなかなか多角化は成功しないと考えるべきだろう。異業種での営業経験がある人なら分かるだろうが、ルートセールスと新規開拓、法人相手と個人相手、男性客と女性客ではどれも営業方法や営業トークはまったく違ってくる。このすべてができる人など、滅多にいるものではない。

どこまで絞って集中するか

銀行出身でリフォーム会社を経営する社長のお話を聞く機会があった。リフォーム事業というのは新築住宅と比べると工事単価が一ケタも二ケタも低く、大量生産できない分野のために大企業はなかなか本気で参入しようとはしない。「今は不況だからリフォームでもついでにしておこうか」という「でもしか産業」でしかない。

しかし、そのリフォーム事業であっても、キッチン、バス、トイレ、洗面所などの水回りやクロス、ふすま、網戸、ドア交換などの内装、外壁、屋根、ベランダ、庭、車庫などの外回りと、その商品分野は数百にも及ぶそうだ。そこで、その社長が絞ったのが「一戸建ての外壁リフォーム」だった。外壁は傷むと外からでも確認でき、比較的リフォームに対するニーズをつかみやすく、同業他社には材料や営業方法が悪質なところが多く、逆にチャンスだと考えたのだという。

そこで外壁リフォームとはいっても、売上を上げるために、ついビルやマンションにまで手を広げたくなったりするものだが、その社長は原材料には大手塗料メーカーの最高級品を採用し、とにかく一戸建ての外壁リフォームにだけ営業を絞り、「エリア戦略」や「顧客戦略」も駆使しながら急成長を果たしたのだった。

絞ることのメリットは多い

リフォーム業界はまだまだイメージが悪く、優秀な人材を確保することもままならない状態だ。そんな従業員に数百もあるリフォーム商品の知識をすべて習得させようとすれば、5年や10年はかかることを覚悟しなければならない。その点、商品を外壁だけに絞れば従業員教育もしやすく、営業もしやすい。何でも屋の同業他社に比べて、外壁塗料の仕入れの面でも有利に運ぶことができる。もちろん、その反面としてこの一戸建て外壁リフォームでこければ、即、倒産に至ることは覚悟の上だ。

しかし、それでも絞れば仕事がその分シンプルになり、システムにしやすく、拠点展開もしやすくなる。これを大企業ができるか。他社がそこまでの覚悟を持って追随しようとするか。「弱者」には大企業がやれないまでに絞ったことを、覚悟を持ってやり切ることが「成功の秘訣」だとこの社長は振り返る。

皆が発明家やベンチャー起業家ではないので、なかなか世の中にない商品で絞り込むのは難しいだろうが、「商品3分に売り7分」との言葉もある。営業方法の差別化などで成功する方法はいくらでもあるというのが正解ではないだろうか。

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