【目次】
現実をしっかりと受け止めているか
経営者ならずとも失敗の経験は多くあるだろうが、企業を経営していれば直のこと「絶対に売れると思っていた商品が売れなかった」「絶対に当たると思っていたイベントがうまくいかなかった」といったことは日常茶飯事だ。これまで「著名な経営者でも始めのころは失敗の連続だった」という聞きかじりの話を受けて、「だから自分も失敗をして当たり前なんだ」と考えてきたが、失敗をしたときの受け止め方に根本的な間違いがなかったかと考えさせられる。要は、同じ失敗をしても「うまい失敗をしていなかったのではないか」という反省だ。
第一、厳しい現実をありのままに真摯に受け止めていなければ、うまく失敗をしたとはいえない。例えば、最初から準備不足だったりすると、失敗は準備不足が原因なのか、その他の何か根本的なことがそもそも間違っていたのか、何が失敗の原因だったのか分からない。仮に準備万端で臨んでいたとしても、「これを買わないお客さんの方が間違っている」などと考えると、それは失敗を認めたことにはなっておらず、その結果、同じような失敗を重ねて会社はつぶれてしまうという憂き目を見る。また、失敗が怖くて、始めから目標のハードルを下げてしまうのも「成功」とは程遠い。
今日カリスマと呼ばれる経営者の経歴にもある数々の失敗と何が違うのだろうか。
コンプレックスが大きな障害に
挑戦するから失敗もする。挑戦をしなければ失敗もしないが、成長もしない。企業の経営者にとってその企業が成長しないというのは、経営者として失格だ。周囲が時代の流れの中で変化しているときに、現状維持はありえない。自社だけが変わらず生き続けるということは不可能だ。スピードはいろいろあっても、衰退に向かうのか、進化・発展していくかのどちらかだ。その時につきものの失敗をどう受け止めるのかは、一重に経営者の考えによるところが大きい。
「プロフェッショナルを演じる仕事術」の著書がある若林計志氏は、その著書の中で「『学ぶ』という観点から見ると、コンプレックスが大きな障害になっている事が分かります。コンプレックスが強い人ほど、自分より優れたものや、自分が理解できない事に直面すると、そこから学ぼうとするより、否定しようとする気持ちが無意識に働いてしまうからです」と述べている。そこで、典型的なコンプレックスの反応を知っておくことで、ある程度はそれをコントロールすることが可能になると説いている。
本気でやれば成功する?
その一つが「同一視」。これは自分にできないことがあると「自分だって本気を出せばあれぐらいできる」と思おうとする心理だ。この心理にあると、「もし本気でやったら自分だって」と思うだけで、まったく何も行動しない人も出てくる。また、「投影」という、「うまくいかないのはあいつのせいだ」と、できない理由を他人のせいにする心理反応もある。何か起こるたびに「あいつが悪い」と考えていると、いつまで経っても同じ失敗を繰り返す。そして、「反動形成」。「お金を持っている人は欲深い」「いい大学を出た人ほど使えない」と批判する人ほど、「本当はお金が欲しかったのではないか」「いい大学に入りたかったのではないか」という心理が透けて見えるというものだ。
コンプレックスを解消する方法は、「小さな挫折と、それを乗り越える経験を繰り返す以外にありません」と若林氏。例えば、学校のサッカー部に入部した少年が自分よりはるかに上手な先輩や同い年のライバルを前にしたとき、①サッカーを一生懸命練習してうまくなろうとする、②「サッカーなんか僕の人生に不要だ」といって退部する、③「指導方法が悪いからうまくならない」と非難する、④サッカーをやると健康にいいから下手でもいいと考える、という4つの選択に直面するという。そこで人はもともと弱い生き物なので、②や③などの選択を取ってしまいがちだが、よい指導者は①へと導くという。
成長するための目標
振り返って、経営者としての自分はどうなのだろう。失敗するたびに場当たり的な言い訳を考えて現実から逃げてはこなかっただろうか。それが個人の間で留まっているならともかく、会社の発展へ向けた可能性を大きく損なっていなかったのではないか。そんなことを考えてしまう。
ハーバード大学のデビッド・マクラレンド博士は、目標達成率が50%ぐらいのことに取り組むときが、人のモチベーションが最も高くなることを心理実験を通して証明したという。完全に運任せでなく、努力と才能次第で半分ぐらい勝てるゲームが一番熱中し易いそうだ。確かに逆立ちしても勝てない相手とは勝負しようとは思わないし、子供相手に勝負を挑むのはもっと大人気ない。
と考えると、何を相手に試合に臨むかということも大切なのだろう。それは企業とて同じ。あまりに高い目標を掲げても、失敗することが目に見えているのであれば企業の成長にとってそれは有益ではない。自分や企業を成長させる良い機会だと考えて、それぞれの目標に挑戦していくことで見えてくるものもあるのだろう。