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阿吽の呼吸で経営できたのは昔
日本人の正社員がほとんどを占めたかつてと違って、今は社内に正社員以外、契約社員、派遣社員、パート・アルバイトらがいて、しかも中途採用者、外国人、女性、定年退職後の高齢者など、いろいろな立場、いろいろな背景を持つ人たちが集まって、それぞれの仕事に取り組んでいる。そんな時、これまで日本の企業の強みであった「阿吽の呼吸」での取り組みが当然、期待できなくなっている。それでも昔ながらのやり方から変わろうとしない、変えられないままでいる企業は今も多い。
今も「経営コンサルタント」と言えば良いイメージを持たない経営者は多いが、それでも「マネジメントのコントロール」が必要なことはそんな時代の中で広く認知され出している。それにはいろいろな仕方があるが、大体において3つのコントロールに分けられるように思われる。その1つは作業レベルのコントロールだ。作業する人に依るバラツキをなくし、作業の正確性や効率性を図るというもの。2つ目は結果を重視したコントロール。売り上げや顧客満足度といった指標を設定し、それを達成する方法を個人に任せていくやり方。そして最後の3つ目は経営理念や規律の在り方など、組織全体の雰囲気に関わるものだ。
社内の問題に3つの視点を組み合わせる
上記3つの方法にはそれぞれ長所と短所がある。作業レベルのコントロールでは、個人による成果のバラツキは減る一方で、言われた通りにしていればいいといったように自主性が減る危険がある。結果を重視したコントロールでは、自分で考えて動く人が増える一方で、細かな指示がないために成果を上げる人と、上げられない人との差が生まれる。組織全体の雰囲気に関わるコントロールでは、人のやる気を高めることにつながるが、だからといって必ずしも結果を出せるわけではない。だから、この3つのやり方をうまく組み合わせることが必要になってくる。
今社内で起きている問題の背景には、それぞれ必ず理由があるはずだ。それに対してどのような手を打つのが良いのか。上手く行っている企業を見学しても、何となく「すごいな」という印象しか持つことはできない。そして、その手法を真似て導入しても、何故その手法がその企業に有効に効いているのかを理解しないままだと失敗に終わる可能性が高い。そうではなく、因果関係を見抜くことができれば問題を解決することができる。例えば、もし現場の自主性に任せたコントロールをしたいのであれば、結果を重視したコントロールと組織全体の雰囲気に関わるコントロールの2つを組み合わせて取り掛かるのが良いといった具合だ。
ゲーミフィケーションは作業レベルのコントロールの一つ
今はやりの「ゲーミフィケーション」という手法は、作業レベルのコントロールをする時に、ロールプレイングゲーム(RGB)の主人公のように、レベルアップできる道を用意する。「時間内に商品を出す」「お客様を喜ばせる」といった経験値に従って、別の仕事や難易度の高い仕事に挑戦できるようにするのだ。具体的には、レベルに応じて制服の色が変わったり、資格を認定したり、報酬を増やす。同時に自分が裁量できる仕事の範囲を増やしていく。スターバックスでは、厳しい試験に通ったスタッフに黒のエプロンを授与する「ブラックエプロン制度」があるという。
企業が小さな頃はこのゲーミフィケーションのような手段を利用するまでもなく、一人が多くの役割を兼任し、自然に皆で助け合う。そして売り上げが増えれば、皆自分のことのように喜ぶ。ところが大きくなるに従って、様々は規則が社内に生まれ、たとえ頑張って受注を取ってきても、それがイレギュラーなものであれば社内で嫌な顔をされるようになる。さらに他の部署の仕事に下手に口を出そうものなら、反撃をされることさえ出てくる。このようにあちこちで部分最適化が起こり、それぞれの人が与えられた仕事を無難にこなしていく中で、組織全体としての力が発揮できなくなっていく。このような事態を避けるためには、組織全体の雰囲気に関わるコントロールや結果を重視したコントロールを見直す必要がある。
人の成長にもコントロールを変化させる
それは企業の成長だけではない、人の成長にも応じてコントロールは変えていく必要がある。例えば、誰でも始めは新人としてキャリアがスタートするわけだが、会社が新人を評価する基準はどれだけ作業レベルのコントロールや組織全体の雰囲気に関わるコントールに忠実に働いているかだ。やがて経験を積みマネージャーなどに職位が上がっていくと、自分で考え、行動できる範囲も広がってくる。そして、評価軸も作業レベルのコントロールから結果を重視したコントロールへ徐々に移行しなければならない。いくら正しい行動をしても、結果を出さなければ意味がなくなってくるのだ。
その結果を重視したコントロールが最も求められるのが、経営者に他ならない。よく「財務諸表は経営者の成績表だ」と言われる由縁だ。同時に、組織全体の雰囲気に関わるコントロールを誰よりも忠実に実行し、従業員たちに経営理念を浸透させる役割を負っているのも経営者なのだ。マネージャークラスの仕事は戦略を実行することにある。これまでに述べた3つのコントロールを組み合わせて、常に状況を見ながら変化させ、改善を積み重ねていかねばならない。