未来の世界が実現

次世代通信規格「5G(第5世代通信)」を巡る話題が相次いでいる。5Gは現行の4Gの通信速度より100倍速いと言われている。2時間の映画が数秒でダウンロードできる速さだそうだ。NTTドコモがYou Tubeで公開している「ちょっとだけ未来の世界」を見ると、そこに5Gが普及した世界が描かれている。

詳しくはそれを見ていただくのが手っ取り早いのだが、ここでその一端だけ紹介する。
まずは一日のスタートでもある朝のシーンから。腕に巻いたウエアラブル端末が男の子を起こしてくれ、それに連動してスピーカーから音楽が鳴り、エアコンが稼働する。キッチンにいるお母さんは、専用のモニターから家族の誰が起きているのか、どこにいるのかが分かる。このデバイスを通じて、男の子が装着しているウエアラブル端末と通話もできる。ダイニングテーブルにはモニターが埋め込まれており、ここでニュースや予定をチェックする。

男の子は家族と一緒にテニスの試合観戦に向かう。車は完全な自動操縦で、誰もハンドルを握っていない。社内にはホログラムでテニスの映像を投影して、迫力のある映像を楽しめる…といった具合だ。

来年には商用化開始

一朝一夕にはそんな風に描かれた世界は実現できないとしても、そんな未来の社会で私たちはどんな貢献ができるのだろう。今の仕事は5Gの社会の中で成立しうるのだろうか。成立しうるにしても、やり方はこれまでと大幅に変わっているはずだ。

5Gがまだまだ先の話と侮っていてはいけない。総務省はこの4月にNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルに5Gの周波数を割り当てた。9月のラグビーワールドカップ(W杯)でプレサービスが始まり、2020年春に商用化される。5Gの展開で世界をリードするために、「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」という3つの特徴を活かしたサービスをいつどこで開始するのか。今後各社は競い合って5Gの新たな波を起こしていく。

4社の5G特定基地局開設計画の申請内容について、「5Gに対して非常に意欲的だと感じた。ニーズがあれば迅速に対応していただけると期待している」と電波監理審議会でも評価されたと言われる。NTTドコモやKDDIが2020年春までに、全国を10㎞四方の網の目状に区切った約4600か所(山や海を除く)の90%以上に、5Gサービスの基盤となる高度特定基地局を置く方針を示したからだ。

急ピッチで進む基地局の整備

ただ、5Gを利用するためには、競技場や工事現場、診療所などの5Gを利用する場所に基地局(子局)を設置し、高度特定基地局(親局)と光ファイバーケーブルでつながなければならない。親局のカバー率が9割を超えても、子局のカバー率がどのくらいになるのかが、今後の普及の目安になる。商用化当初は、一般家庭や事業所よりまずスポーツ施設や交通機関、商業施設で5Gサービスに触れることになりそうだ。

5Gの周波数割り当てでは、NTTドコモとKDDIが3.7ギガヘルツと4.5ギガヘルツ帯で申請通り2枠を獲得した一方、同じく2枠を希望したソフトバンクは1枠だけに留まった。5G特定基地局開設計画の審査結果で、ドコモとKDDIがソフトバンクと楽天モバイルの評価を大きく上回ったからだ。28ギガヘルツ帯については4社とも希望通りに1枠づつ割り当てられた。

これに対して、ソフトバンクでは、「本音では(ドコモやKDDIと)同じ枠数を欲しかったが、さほど背伸びする必要なない」と、3.7ギガヘルツと4.5ギガヘルツ帯で1枠しか割り当てられなかったことについて言及している。

コンテンツで勝負

5Gの基盤となる高度特定基地局のカバー率が、ドコモやKDDIの90%超と比べて64%と差が付いたことについては、ソフトバンクは「10㎞四方に高度基地局を1局だけ作るのでなく、既存の周波数との組み合わせで21年度末までに90%以上の人口カバー率を実現させたい」と話す。既存の小型基地局のソフトウエアのアップデートなどで5Gに対応可能にすることで、コストを抑えながら5G対応地域の拡大を迅速化すると見られる。また、5Gの料金についても、「4Gで提供中の料金水準を一つの基準としてユーザー利便性の高い料金プランを提供する」としている。

10月に携帯電話事業に参入する楽天も「重要なのは、より安く、より便利に使ってもらうことだ」と話す。政府から通信料金の引き下げを迫られる中で、競合3社よりも競争力のある価格帯で展開し、勝負をかけると見られている。

こうしたインフラに関しては、何より今後5Gで問題とされるビルなどの電波障害に、より高周波増幅機能の増強とアンテナや使用半導体の高性能化、小型化、低価格化が求められる。そして、そもそも5Gが望まれるような新しいコンテンツなどが生まれないと、その普及にも影響が及ぶことになる。

どういった観点からどんな企業がどのような存在感を発揮していくのか。すでに5Gの社会に向けた各社競争の幕は切って落とされている。

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