【目次】
締切日がつくる「バカ力」
あらゆる仕事において、目標は数値化しないと意味がない。「営業でないから数値化できる目標はない」と言われることも多いが、それでも締め切り日時というのはあるはずだ。それだけでも立派な数値目標になりうる。「とにかくこれをお願い」といってただ手渡される仕事は、果たしてどのように取り掛かって良いのか、ハタハタ困ることになる。恐らく、私同様、ほとんどの人にとっても、「いつでも良いのなら、今やらない」と考え、やればすぐにできる仕事でも、なかなか取り組む気持ちにはならないのではないだろうか。
逆に、文字通り「デッドライン(締め切り)」が決められていると、「火事場のバカ力」ではないが、何とか間に合わせようと必死になって取り組むはずだ。だから、どんな些細な仕事でも締め切りを確認するようにしているのだが、世の中には「いつでもいいから」と指示することがままあるようだ。先日もある異業種交流で知り合った若手がぼやいていた。「ただでさえ忙しいのに、『いつでもいい』なんて言われると、やれないですよね」。結局、私がその若手社員に対して素晴らしいなと思ったところは、「じゃ、来週いっぱいまで時間をください」と自ら締切日を設定していたことだ。
急ぎの仕事は忙しい人に
よく「急ぎの仕事は、忙しい人に頼め」と言われたりするが、これも締め切りに関わる心理をうまく表している。暇な人には時間がたっぷりあるのでどうしても動作が緩慢になり、仕事も遅くなるのが常だ。逆に忙しい人は「いつまでに何をしなければならない」と決めて仕事にかからないと収拾がつかなくなるため、行動がスピーディーになる。時間のやり繰りが上手だし、仕事のできるのも早くなる。
結局、締め切りという目標があれば、早く走り出せるし、仕事の効率も高まる。その結果、自由時間だって増えるのだ。しかも、締め切り通りに仕事が仕上がれば、達成感も得られて、非常に気分も良くなる。
すべて良いこと尽くめのようにも思えるが、注意しておいた方が良いこともある。それは、「人は締め切りに対するプレッシャーに弱い」ということだ。だから早く済ませようとするのだが、逆にあまり強いプレッシャーにすると、持ち時間を短く見積もってしまい、それによって生産性が低下することがあることも知られている。だから人によって、その締め切りを設定するに際してあるコツがいると言われる。
仕事を分けてプレッシャーを小さくする
時間に対するプレッシャーにあまり強くできていないのは誰にしても共通のようだ。自然の中で生きてきた祖先の感覚が私たちの体に残っているからだと言われる。そのため、特に分刻みのスケジュールには心身を病んでしまいがちなのだそうだ。
この締め切りが持ち時間を短く認識させて生産性を低下させるという影響は、どちらかと言えば、大きな仕事に対して受けやすい。しかし、「大きな仕事でも小さなタスクに分解すれば、達成が容易になるので、その影響を受けにくくなる」と見られている。つまり、一度に大きな仕事に締切日を設けていきなり実行に取り掛かる(取り掛からせる)より、それを小さくしたものにそれぞれ締め切りを設ける方が良いということだ。
また、その締め切りの儲け方だが、①個々に合わせた制限時間で行う、②制限時間が一番「長い」人に合わせる、③制限時間が一番「短い」人に合わせるーのどれが最も効率が上がるか、お分かりだろうか。これは調査によると、②の一番「長い」人に合わせて制限時間を設定したときが、最も効率が良くなったということだ。個々に合わせるのでもなく、「短い」人に合わせるのでもないことに注意が必要だ。
難易度の見極めは早期に
しかし、それでも締め切りを守らない(守れない)人も多いのは事実。どうしてそのようなことになるのか。共通して言えることは、そのしなければならない仕事の難易度が十分に分かっていないことからくることが主な原因であるように思う。特にシステム開発のような仕事の現場ではそのような問題があることを頻繁に耳にする。どんな仕事でもやってみなければ分からないことはあるものだが、その見方が甘いのではないだろうか。だから、ラストスパートをかけても締め切りに追いつかない。
「締め切りに迫られないと頑張れない」というのも本音としてはあるだろうが、厳しく言えば、それではプロの仕事とは言えないのではないか。10日間でやるべき仕事なら、始めから8日間で仕上げるつもりで仕事を進めて、万一ミスがあった場合のリカバリーの時間を取っておくことも大切だ。つまり、スタートダッシュで締め切りに間に合わせなければならないのだが、初期の段階で本当に間に合うのか、間に合わない可能性があるのではないかの見極めをする必要がある。特に連続した仕事であった場合、他の仕事へ遅れの影響が及ぶことも考えられるので、そういった感覚は研ぎ澄ましておく必要がある。