【目次】
「ギャップイヤー」の意味
「ギャップイヤー」という言葉を聞かれたことはあるだろうか。最近は日本でも少しずつだがその導入について検討されることが多くなっている。
このギャップイヤーとは、本来は高校卒業後大学に入学するまでの間、あるいは大学卒業後大学院に入るまでの期間にまとまった休みをとって、専門の勉強以外の学びに費やしたり、ボランティアや旅行、インターンシップといった経験を積むことを指す。アメリカでは高校を卒業する6月から、大学入学の9月までの間に、短期間の語学留学をしたり、ボランティア活動をしたり、大学生活で必要な生活費を稼ぐためにアルバイトをすることが多いようだ。
イギリスでも定着しているようで、ギャップイヤーの経験者は1割近くいると言われる。大学中退者が20%を占めるイギリスで、ギャップイヤーを経験した人の中退率は3~4%程度に留まっているそうだ。一見「寄り道」的な期間にも思えるのだが、積極的に学ぶ意義や目的に気付かせてくれる。
日本でも人生の大切なステップとして検討
ギャップイヤー経験者は企業からの評価も高い。あるアンケートによればイギリスの経営者の6割が入社の採用時に、大学の学位よりギャップイヤーの経験を重視している。この結果から、ギャップイヤーは学生のバーンアウト(五月病)や中退者を減らすだけでなく、キャリアアップや成長の場になっていることがうかがえる。
このギャップイヤー制度が日本にも広がり始めているというのだ。そのきっかけは東京大学が掲げた秋入学の導入の検討に始まるようだ。高校卒業から大学入学までの間が空くわけだが、その間に学生にいろいろな体験をしてもらいたいと考えている。その期間中は単位の取得はできないため、結局高校卒業から大学の卒業まで4年半を要することになるのだが、社会への適応力を高め、人生を企画する大事なステップになると期待されている。
日本ではせっかく就職しても、入社後3年間の間に大卒の3分の1が辞めるご時勢だ。3年以内というと、多くはキャリアを積めないままに離職することになる。それなりの目算があって辞めるのかもしれないが、その後アルバイトや派遣社員という今の社会の中で不安定とされる雇用条件の中で働かざるを得なくなるケースも多いのではないか。
ギャップイヤーで視野を広く、専門を極める
それなら、もっと積極的にギャップイヤーを制度として取り入れることを考えたらどうだろう。一企業であっても、例えば最初の1年間は特定の部署に付けず各部署の持ち回りの期間にして、まず企業がどういう職場から成っているかを知ってもらうというのはどうだろう。どんな部署が実際にどんな活動をしているのか肌で知ってもらうと同時に、相性を確かめる期間にもするのだ。
ギャップイヤーという形にこだわらなくてもいい。ひたすらレールの上を走り続けることに疲れることもあるのではないかと思うのだ。人生の途中で少しレールを外れ、レールの外から自己や世界を見直すことも大切なように思う。そのためなら、まず個人が人生の節目でそういう機会を持つことに工夫をすればいいが、あるいは、企業にしても人を育てることに重きを置くなら、そうした独自の機会を設けるのも良いのではないだろうか。
例えば取引先の企業へ武者修行に出したり、大学の研究機関に出すのもいい。それをキャリアを積むためのルートとして取り組んでいる企業も多いかもしれないが、もっと積極的に企業の外から見てもらうことで、社外に出した方の企業にとっても長期的な発展に役立つのではないだろうか。
但し、外に出す場合はしっかりとその狙いやその企業としての期待を話して分かってもらっておかなければ、せっかく就職したのにどうして外に出されるのか分からないままでは、むしろ離職を進めるような形になりかねない。大手企業であれば海外留学制度を設けているところもあるが、そこまでの余裕はなくても、対象者には視野を広め。専門分野をより極めるために期待していることを、意を尽くして説明しておかなければならない。
もっと柔軟に
視野を広めるという点からは、ボランティア制度を採り入れ、一定の期間、社外でボランティアや地域おこしを体験してもらうのもいいかもしれない。就職後の離職率の高さを見ても、日本の若者たちには少し、人生の「寄り道」的な経験を積んでもらうのがいいのではないか。高校、大学、そして就職とストレートに歩むことが幸せにつながることに必ずしもなっていない現実をもっと見直すべきだろう。社会がそのような仕組みにまだまだ対応しきれていない現実を考えると、企業でそれを取り入れるのはきっと人材を長期的に育成しているための有効な手段にもなろう。
「世界は頭の中だけにあるのではない。やってみなければ分からないことってたくさんあるのだ」と医師の鎌田實氏もその著書の中で言っている。対象者がギャップイヤーという寄り道的な経験で新しい発想を得て、もっと柔軟に生きることができることを知ることで、企業の可能性も広がる。実際にアメリカやイギリスのギャップイヤーの経験者の中には、企業に入ってもユニークな活動を始める人たちも多いと聞く。多彩な経験を積んだ人たちが集まる工夫をすることで、企業ももっと面白くなるのではないだろうか。