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実証実験で未来への試み
2025年に国際博覧会(万博)が大阪で開催されることに決まった。今後会場となる人口島の夢洲(大阪市此花区)には基盤整備が急ピッチで進められることになりそうだ。この大阪での開催目的には、デジタル技術が人々の暮らしを豊かにする新しい社会「ソサエティ5.0」の実現を掲げている。英国の総領事のセーラ・ウテン氏が「未来社会をつくる方針が英国の産業戦略に非常に似ている」と評価するように、海外でも大阪万博が示す未来像に期待が高まっている。
地元の思いはもっと熱い。もともと大阪・関西が持つ力について、医療や食文化など、さまざまな分野で日本をリードしてきたとの思いが強いだけに、ある中小企業経営者が話すように「万博では50年先、100年先の未来までも描ける」と鼻息は荒い。実際、計画では「未来社会の実験場」を掲げ、開催までの7年をかけてロボットやドローン、人工知能(AI)などの実証実験を関西で展開することになっている。パビリオンは終了後に撤去されるが、実証実験の成果は万博の残す遺産として未来につながっていく。
ファーストフードが人気
1970年の大阪万博のことは私も鮮明に覚えている。「未来の世界はこうなるのか」と子供心にワクワクしたものだった。当時万博には未来に思いをはせる機運が充満していた。動く歩道やモノレール、温水洗浄便座、電波時計、今の携帯電話につながるワイヤレスフォンなど、万博でお目見えしたものでその後普及していったものはたくさんある。今回もどんなものが出てくるのだろうか。製品だけではない。産業として大きく発展したものもある。その一つがファーストフードチェーンであり、エアドームに代表される膜構造を持った建築物だ。
70年の万博でケンタッキーフライドチキンの実験店が出展されたのが、日本にファーストフードが生まれた始まりと言われている。その店では一日なんと280万円の売り上げを記録したというから驚きだ。この時から1年遅れて日本マクドナルドが名古屋に出店。73年には吉野家が神奈川県小田原市にフランチャイズ第一号店を出店している。さらに、同年にはシェーキーズも渋谷に第一号店を出すなど、本格的なファーストフード時代を迎えることになった。
エアードームも万博で注目
70年万博で登場した膜構造の建築物は、富士グループ館やマッシュバルーン、アメリカ館で採用され、当時その華麗な登場と従来の概念を打ち破った建築物の構造やデザインが大きな注目を集めた。アメリカ館で使われた原理は、その後1987年に誕生した東京ドームにも使用されている。さらにこの時期には海洋土木工事における汚濁拡散を防止する世界初の海中膜も生まれている。
日本の膜構造建築の歴史に残るとも言われる東京ドームには、厚さが0.8㎜のテフロンコーティングされたガラス繊維布のパネルが225枚使用された。特にこの巨大ドームの建設以降、膜構造の建築物が飛躍的に増加することになる。
国内のその分野で7割以上のシェアを持つ太陽工業は、その70年万博を契機に事業を拡大してきた。もともと大正11年に創業した当時は、テントを扱うメーカーだった。当時のテントといえば、サーカスやイベントなどの特別な用途にしか使われるものではなかったが、独特のアイデアを積み重ねながら、後の膜構造の建築物に事業を発展させたのである。
次はどんな産業が出てくるか
万博に限らず、このように大きなイベントが催される際には、次の時代につながる何らかの遺産が残されたりするものだ。遺産は建物のようなハードばかりではない。万博ではないが、これも有名なところで、セコム(当時の社名は日本警備保障)の飛躍のきっかけとなったのも、1964年に開催された東京オリンピックの選手村の警備を担当したことだった。セコムが日本で初めての警備保障会社として創業したのは62年。65年にセコムをモデルにしたテレビドラマ「ザ・ガードマン」が放送されたこともあって、一気に知名度が上がった。
さて、日本では2020年に東京オリンピック・パラリンピック、そして今回の2025年の大阪万博と世界的なイベントが続く。次はどんな新しい産業、どんな新しい企業が登場してくるのか、目を離すことはできない。これを今読んでいただいている皆さんにも等しくチャンスはある。新しい時代を切り開く挑戦を是非仕掛けてみましょう。