長所と短所を把握する

私が会社を創業して2年が過ぎた。先日、会計事務所にお願いしていた2期目の決算報告書ができたばかり(ちなみに会社は6月期決算です)だが、お世辞にも良い決算とは言えない。何とか赤字にはならなかったといった感じだった。それでも初年度が真っ赤な赤字決算だったことを考えると、徐々にではあるが会社としての形をなしつつあるといった手応えをわずかながら感じている。3年目となる今年度は何としても、いくらかの黒字を計上しなければと思っている。

2年目の決算報告書を会計事務所から受け取った後の雑談で、その会計事務所の先生に私の会社の長所と短所を聞いたところ、「長所も短所もあなたが社長であることだ」と指摘をされた。何だか謎解き問答のようだなと感じていたら、今後は自分が社長であることが会社の短所になっている部分は人に任せ、長所になっている部分に専心していくようにアドバイスをされた。そこで、自分の短所と長所についてまた悩むことになるのだが、なるほどと、組織作りの取っ掛かりを教えてもらったように思った。

どちらを優先させるか

ちなみに、改革への取り組み姿勢は世代や時代によって異なるということを聞く。若くて勢いのあるリーダーが社長を務める会社は長所を伸ばすことに意欲的であるのに対して、年配の慎重なリーダーが社長の会社は短所の是正に熱心な傾向があると言われる。

また、日本の会社は戦略的に短所の是正を得意とするところが多いとされる。例えば、研究開発において1000個の試作品から100個の不良品が出れば、その100個を徹底的に分析し、問題点を是正して改良していく。

一方、米国の企業はよくできた試作品の方にスポットを当てて、なぜそれが良いのかを追求し、さらに磨きをかけていく傾向が強いのだと言う。日本式が良いのか米国式が良いのかというわけでも多分ないだろうが、聞いていてもなるほどと思う。

要はどちらの方が合っているのかを、その時々に見定めることが大切なのだ。改革に着手する際に心得なければならないのは、「長所を伸ばすことと短所の是正は同時にはできない」ということだ。

表裏一体の長所と短所

米国に、「ロバはキックとプルは同時にできない」という譬えがある。ロバに「進め」という指示と、「止まれ」という指示を同時に出せば、ロバは身動きが取れなくなるというわけだ。これは先ほどの長所と短所の話にも通じる。長所と短所は表裏一体ということもある。長所を伸ばせば短所も増え、逆に短所を直そうとして長所を殺してしまったりする。さらに、経営者が短所と考えていたことが、実は顧客からは長所と受け止められていたというケースさえもあるので、その判断は要注意だ。

実は私の以前の顧客にもこんな例がある。それはあるレストランの経営者だったのだが、ある時にその店を任せていた料理長がその弟子を連れて突然に店を出て行ってしまった。店の存続に赤信号が灯り、困った経営者は仕方なく次の日から自分でも作れるカレーライスといくつかの簡単なメニューに絞って店を続けた。始めはこれまでのメニューがないことに面食らった来店客も、段々と経営者の腕が上がるにつれてそのカレーライスを目当てに来店するようになった。今ではそこはカレーライス専門店になって以前よりずっと効率的な経営をしている。これなども短所が長所に化けた例といえる。

改革は柔軟に対処する

私の会社はやっと単年度の収支がトントンになったというだけで、一般の方から見られても業績的にはまだまだだ。だから、その会計士の先生とも話をして10年先を見据えた長期の計画を立てることになった。まず、最初の3年間は長所を伸ばすことに専念する。そして次の3年で短所の是正に全力を注ぎ、残りの4年でバランスを取るというものだ。まだ創業して3年目の会社なので、短所の克服を優先しているとそれだけで息が切れてしまうことになりかねないため、長所を伸ばすことを優先させた。

私の会社の例は似たような立場に置かれているところも多いかもしれないと思って紹介させていただいた。先行きの見通しの立ちにくい現在の状況下では、個人も組織も己をよく見極め、柔軟に長所と短所に向き合う必要がある。未知の状況に柔軟に対応できる態勢を整えておかないと、後悔先に立たずである。自分の短所は直さねばと思いながら、なかなか思うようにはいかないものだが、会社という組織ならそれができるのかな?

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