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会員減に悩む工業団体
先日、ある市の工業会に所用があって出かけた。その工業会の専務理事が話すところによれば、目下の問題が、会員の減少に歯止めがかからないことだそうだ。「工業会」と名乗るだけに、地域の製造業者の団体として行政と連携を図りながら中小企業をさまざまな面で支援をしてきた。しかし会員の減少によって会費収入も大幅に減ってきており工業会としての事業の継続が難しくなっている。それがまた団体の魅力を弱めることにつながり、会員の減少の原因になるという悪循環に陥っているという。近隣の工業会でも似たような状況だそうで、中にはこの10年間ほどの間に会員数が半減したところもあるという。
その工業会では、会員の減少の主な要因は清算する企業が多いことによるようだ。大都市にあって近年交通の便が一段と良くなるに従って、工場の敷地が民間の住宅やマンション用地として高く売れる。このまま苦しみながら事業を続けるより、いっそのこと土地を売ってしまった方がその後、楽に暮らせるという。企業の承継問題とも合わさって、その流れを止めるのは難しい。ならば新しく入会する企業を増やさなければならない。工業会でもその魅力づくりは欠かせないが、残念ながら企業の方でも参加に積極的なところは少ないという。
活発な青年部会
だがそんな中でも、2代目、3代目経営者が集まる青年部会の動きは活発だ。その工業会でも10年前に8名でスタートした青年部会が、現在その3倍の24名まで増えている。その活動もゴルフコンペや飲み会のような会員同士の親睦会に留まらず、家族まで巻き込んだイベントを催したり、独自に研修会や企業の見学会を開催している。とにかく、行事のない月はないほどにスケジュールが目白押しだ。そして、近隣の工業会の青年部会同士の交流なども行っており、とにかくこれだけやれば互いに仲も良くなるだろうと思われるほどだ。
業界団体というと、とかく旧習が覆う閉鎖的な集まりをイメージされがちだが、かように内部ではそのイメージとはまったく異なる活動が生まれたりしていることがある。企業によっては親団体の活動には興味はなくても、その青年部会のようなグループには交わっていきたいというところもあるかもしれない。将来、その青年部会のメンバーが親団体の役員などになれば、また親団体にも変化が生まれ、新しい魅力が加わることになるかもしれない。
気に入らないなら発言権を持とう
話は突然変わるが、昨年1年間の訪日外国人観光客の数は2000万人を超えたと伝えられている。つい数年前を振り返って見ると、まさに昔日の感がある。この多くが日本食を楽しみに来てくれているのだそうだ。これはユネスコの「世界無形文化遺産」に「和食」が登録されたことと無縁ではないだろう。すでに海外における日本食レストランの数も2013年に約5万5000件だったのが、今や10万件を超えているのだそうだ。さらに今年、「世界文化遺産」に登録された長崎のキリスト教会群も、当地の地方活性化につながっているということで、地元では大いに沸いているそうだ。
ユネスコの文化遺産制度には3つある。「世界遺産」、「無形文化遺産」と貴重な文献や記録を対象にした「世界の記憶遺産」だ。その「記憶遺産」に中国が申請した「南京大虐殺文書」が登録され、「慰安婦関連資料」が登録を目指しているということが判明した時、日本ではユネスコが政治的に偏向しているのではないかなどとの波紋が広がり、「脱退すべきでないか」との話にもつながった。しかし、現在、日本はそこから脱退するのでなく、曖昧な審査基準を見直し、「慰安婦関連資料」など政治的な緊張を伴うものはすべて登録を延期されている。これができたのは、日本がユネスコに留まり、分担金を支払い、発言権を確保しているためだ。
従業員一人ひとりが確かな見識を
少し例が大げさ過ぎたかもしれないが、日本はアメリカのように「モンロー主義」を掲げていては生きていけないのと同様に、中小企業もやってはいけないことであることを肝に銘じるべきだ。積極的に他の企業と交わり、他の企業の良いところを盗み、互いに協力し合えるところは助け合っていかなければならない。このことはリーダー1人で奮闘していても限界がある。企業の中の一人ひとりが企業の将来を左右する他企業との交わりの重要性を認識し、経営者を支えていく確かな見識を持つ必要がある。
しかし、現状は特に工業会への加入・非加入に限らず、傾向として非常に内向きになっているように感じる。事業が軌道に乗った状態でないときは「外の活動をする余裕はない」と切り捨て、事業が好調な時は好調な時で「自分たちだけでやっていける」と勘違いをしていては、いつまで経っても長期的な成長を見込むことはできない。特にこれからの企業を担う若い世代に、広い視野に立って、企業が向かおうとする将来への展望を指し示すことができなければ、彼らはだまって辞めていくだけだ。最今の若者の退職率の高さがそのことを表しているようで気になっている。