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アリは指示されなくても労働力を調節
「働き方改革」では相変わらず私たちのこれからのあるべき働き方についていろいろ議論がされているが、ひと時目を昆虫の世界に転じてみると、そこに人間社会へのヒントになることが大いにある。
アリやハチの脳は、脳と神経が連携する「分散型の情報処理システム」であるのに対し、人間の脳は、大容量の大脳を頂点とする「階層型の情報処理システム」であるといわれる。その構造ゆえに、人間は中央統制や複雑さを志向し、アリやハチの昆虫は分散処理でシンプルさを志向するとされる。
まず、働き者のイメージのあるアリだが、意外なことに7割が働いていない瞬間もあるといわれる。「アリは個体間で『働きやすさ』に違いがある」というのは、北海道大学大学院の長谷川英祐准教授。これは「働かないアリがいる」ということではなく、どの程度の刺激を受ければ働き始めるかが、個体間によって異なるというのだ。
例えば、子供が泣き始めてすぐに世話をするアリと、しないアリがいる。世話が間に合わなかった子供は、もっと大声で泣き始める。すると、次に敏感なアリが世話を始める。そうやって働くアリが増え、疲労したアリは交替するのだそうだ。
これは「閾値分散システム」と呼ばれるもので、指示する役割の者がいなくても労働力を調節できるという点でとても効率的になっている。
シンプルな仕組みで分散処理
一方、同じく働き者のイメージあるハチも、その研究においては、巣の材料のパルプを運ぶハチは、バルプを巣作り役に渡すと、もう一度パルプを取りに往復する。だが、パルプを受け取る役が何らかの事情で少なくなった時は、その運び役が巣作りに回る。待ち時間の長さで役割を変えているという。アリやハチはいずれもシンプルなしくみで、「分散処理」しているのがポイントだ。
これらを人間の組織に応用できないかと考えるのだが、長谷川准教授が言うには、そのままでは難しい。働きアリや働きバチはみんな女王の娘で、女王を通して遺伝子を残せる。働いていないアリやハチがいても気にしないからだ。
一方、人間は血縁でみんなが繋がれているわけでなく、誰かが働かなければ不利益を感じる。だが、「例えばごく一部の人の社長賞より、能力別の細かな階級の中で成果を出した人を表彰するという方が効率的なのではないか」と、アリやハチの例からは教えられる。
また、上に能力の劣った人がいるとその集団がダメになるため、「人間の組織にも下が上を選ぶサイクルが必要だろう」。そうすれば、全体のパフォーマンスを上げることもできる。
中間管理職の役割が大切になる
昆虫から学べるチームワークのコツとしては、「誰が働いているか、働いていないかをいちいち気にしないことが大切」という。それぞれ貢献できる場所が異なるからだ。目立った活躍をしていなくても、ピンチの時に素晴らしいアイデアを出し、会社を救う人もいる。実際、アリの世界でも、普段働かないアリが皆が疲れた時に、誰かが必ずやらなければならない仕事をするから、集団が長続きしていた例があるそうだ。
そうはいっても、互いの信頼関係がなければやはり難しそうだ。そこで大切になるのが中間管理職の役割だ。人間は単純な作業であっても能率的にやるなど、様々な貢献を給料で評価する必要もある。また、誰と誰を組み合わせられるかなどの点で、管理職に有能な人を置くことが大切になってくる。
アリは普段働いていないアリのおかげで、集団が中続きする一方で、人間は常に高い生産性が求められる。しかし、大手企業や居酒屋チェーンなどの過労死問題が示すように、全員が精一杯働き続けることは無理だ。そんな職場からは人が離れ、持続性がなくなる。
よくドラマなどに「事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きているんだ」というセリフがあるが、会社も現場が動かしている。管理職は現場がスムーズに働けるようにするのが本来の役目だ。
放任状態にならないための4つの心得
これからの時代、人間はもとより得意としてきたこの中央処理型の利点を生かしつつも、得意ではない分散処理システムを昆虫から学び、それを組織運用に取り入れることが大切になっている。
しかし、分散型の組織というものは、一歩間違うと放任状態に陥ってしまい、組織として機能不全に陥る危険性を持つ。分散して権力を持つ人々を動かして、共通の目的を達成するためには、統制に代わって中間管理職が果たすべき何らかのメカニズムが必要になる。それを昆虫の世界に探すと次の4つが挙げられるという。
一つ目は「ミッションとビジョンを浸透させ、組織の原動力を作る」こと。社員一人ひとりが「何をすべきか」、「どこへ向かっていくべきか」をしっかり把握することが必要だ。
二つ目は「行動原則はシンプルさを極める」こと。これも社員一人ひとりの意思決定の基準をいかにシンプルにして、しなければならないことと、してはいけないことを明確に持っているかが大切になる。
三つ目は「コミュニケーションを図る」こと。社員の多様性を重んじるとともに、その社員間のコミュニケーションを促進することで、新たなイノベーションが生まれることになる。
最後は「従来型のリーダーシップからの脱皮」だ。人間の世界ではリーダーは重要だが、これまでのような統制型のリーダーシップでは時代に対応できない。社員一人ひとりの献身を引き出すようなリーダーシップが求められる。大いに参考になるのではないだろうか。