【目次】
人間的魅力とビジネス遂行能力の両立
日本の実業界の父と呼ばれる渋沢栄一氏の著書に「論語と算盤」がある。そこには、「経営者は、論語と算盤という一見相反する2つの要素を併せ持っていなければビジネスで成功できない」という教えが示されている。理想の経営者とは、この論語と算盤、つまり人間的魅力とビジネス遂行能力の両方をバランス良く兼ね備えた存在を指している。経営者は、自分のレベルを認識し、足りない要素を補う努力をしなければならない。
当然のことながら、経営者も判断を間違える。経営者だから100%正しいということはあり得ない。「失敗も覚悟の上で自分が信じた道を進む」―そんな覚悟を決めるときもあるだろうが、通常は複数の選択肢から最善策を選ぶ。難しいのは、見る人によって選択肢が大きく変わることだろう。
経営者には1から3までの選択肢が見えているとする。しかし、他の人にはAからCまでの、視点の異なる多くの選択肢が見えていることがある。このとき、「AからCまでの選択肢がありますよ」と、意見、進言してもらえるか否かが大きな分かれ道になる。たとえ、そのときに示されたAからCの全てが使い物にならなくてもよいのだ。とにかく自分とは異なる感覚に触れ続けることで、多様な考え方を整理する器ができてくる。
社内外で参謀を持つ
経営者はお願いしてでも意見、進言を求めるべきだ。そのために、まず社内においては参謀を育てなければならない。参謀はビジネスの基本を知っていることが前提となる。その上で、忠誠心とふてぶてしさを併せ持っていれば理想的とされる。忠誠心だけでは経営者に物申す勇気が持てない。同様に、ふてぶてしいだけでは自分勝手なことを言い始める。そのため、2つの要素を併せ持つ人材が良いのだ。
社外では積極的に人脈を広げていこう。人脈には2つのタイプがある。1つは、いわゆるメンターと呼べるタイプ。メンターは、ビジネスのことはもちろん、私生活についても相談できる尊敬すべき存在だ。
経営者にとって、メンターは心のよりどころ、師匠、ロールモデルであり、そしてライバルでもある。多様な考え方を吸収するために、できればメンターは異なる年代で2人以上持ちたい。「この人だ!」と思う人がいたら、「私のメンターになってください」と素直にお願いしてみるのもよい。
もう1つは、自分のキャリアを高めてくれるタイプ。自分のことを目にかけてくれて、通常、自分の力ではすぐに到達できないステージに引っ張り上げてくれる。本業に関するチャンスをくれるのはもちろん、それ以外の分野でも、例えば会合での講演依頼など、経営者が己を磨くための良い機会を与えてくれる。頑張らないと対応できないことが多いとは思うが、率先してチャレンジしてみよう。但しそのためには自ら勤勉でなければならない。
自分磨きを怠らない
経営者なら本を読む機会も多いはずだ。本業に関することはもちろん、それ以外の分野でもビジネス情報を把握しておかないと、他の経営者などと話をするときに無知をさらけ出してしまう。ただし、経営者が読書に多くの時間を費やすのは難しいため、読む本は選ぶ必要がある。
また、経営者はもっとインターネットを使って情報収集をするべきだ。登録しているニュースサイトばかりではなく、世間で注目されているサイトをチェックし、定期的に訪れてみるのが良い。サイトを見つけるにはフェイスブックなどのSNSを利用するのも早道。あるサイトに「いいね」をすると、関連するお勧めのサイトが紹介されるので、手軽にサイトを見つけることができる。
そして歴史、スポーツ、お酒、アニメなど、ビジネス以外にも詳しい分野を持っていると理想的だ。食事会などでうまく話すことができれば、相手に「お酒といえば○○さん。話が面白かったので、次の食事会もお誘いしたい」といった印象が残る。自分磨きというとビジネスに関することを考えがちだが、オフビジネスからビジネスにつながることも少なくない。
異業種交流会で実力を試す
こうして蓄えた知識が、自分の「得意分野」といえるレベルなのかは確かめる必要がある。経営者は異業種交流会などに参加して他流試合をしてみるのがいい。相手の反応をうかがいながら自分のことをアピールしていくうちに、うまく伝えられるようになっていくものだ。
経営者にオンとオフの明確な違いはなく、シームレスに活動しているものだ。良くいえば自分で働き方を決めることができ、悪くいえばダラダラと働きづめになる可能性がある。休みが取れない時期もある。そのような繁忙期を乗り切るためには、また、体調管理の徹底も必要だ。
ランニングや水泳など適度な運動はもちろん、食事会などでも飲食の量をコントロールすることが大切。毎晩のように食事会に参加している人がいて「よく体力が持つものだ」と感心するが、実際に一緒に食事をしてみると、食事もお酒も量は控え目だったりする。加えて話す時間も短い。食事会の目的が情報収集と関係維持であれば、自分が酔ってしまっては意味がない。また、自分がべらべらと話すよりも、良き聞き役に徹するのがよいわけだ。