どこまで踏ん張れるのか

私自身、会社を立ち上げたものの、「もうダメかもしれない」と思ったことが何度あったろうか。否、今でもまだそうした思いが完全に払拭できているわけではない。それは起業の選択を行った者であれば、一部の余程周到な準備を経てきたものでない限り、誰もが悩んでいるものなのかもしれない。

一般にいわれるところでは、せっかく起業しても最初の5年間で80%のビジネスが廃業し、残ったビジネスの20%も次の5年間で廃業する。この結果、ビジネス全体では10年間で96%が廃業し、4%しか生き残ることができない。その根拠については「かなり怪しい」とする説もあるが、現に国税庁の調査でも似たような結果が残っている。

まして、今は人手不足の時代。ただ生活するためならそれぞれに合った職を探せばいろいろとあるはずだ。だからわざわざ苦労して立ち上げたビジネスを続けるために一層踏ん張るよりも、他に進むことを選択する方が楽とする考え方はありそうだ。

どの道を選択するかは人それぞれの生き方なので、ここでそれをどうこういうつもりはまったくないが、廃業に至る経緯はそれぞれあっても、せっかく起業の選択をしたのをギリギリまで踏ん張れるかどうかは何が左右するのだろう。

社会的な使命があるのか

もちろんビジネスそのものの可能性や経営戦略、戦術的にどうかなどの問題はそれぞれあるのだが、ここで言いたいのは精神面の話だ。まず思いつくのは、そのビジネスを始める際の動機だ。それが自分自身の欲望のためだけでなく、社会的な使命を持っているものかどうかだ。

社会的な使命があってそれが周囲から共感を得られるものであれば、周囲からの応援も得られそうだし、簡単に引こうとは思わないかもしれない。外から見ていて、疲労困憊してボロボロになっているのを、それでも「頑張れ」、「大丈夫まだやれる」と声を投げかけるのは、投げかける方でもなかなか容易ではないはずだ。それでもやろうとしていることに周囲の共感があればそれを得られやすいし、どんな慰めの言葉より力を与えてくれるものだ。

だから、すでに起業している人も、振り返って社会的な動機が薄いようであれば、是非それを考え直して欲しい。自分のやろうとしていることが誰かの幸せにつながっているのか、自分の欲望のためだけではないのかを真剣に考え直すことが大切だと思う。私の周りを見回した時、案外それができていなかったりすることが多い。
 

やり切る力があるか

そして、もう一つ思っているのが、一度やると決めたことを最後までやり切る力があるかどうかの問題だ。いくら良いことを思いついて、周囲からの共感を得られても、それを貫徹する力があるかどうかとは別問題だ。順序は逆になったが、周囲の共感を得る前に、貫徹する力があるかどうかがむしろ第一の問題かもしれない。

自分にやり切る力があるかどうかは、普段の生活の中でも見て取れる。例えば、毎日の日課にしていることを、「今日は少し身体がしんどいようだから」とか、「他の仕事で精一杯なので、明日に今日の分まで頑張るつもり」とかの言い訳をして、先に延ばしたり、途中でうやむやにしたりしていないだろうか。

かくいう私も、毎日ではないが週に2回は10㎞をジョギングすると決めている。しかし、その日の体調や天候によって10㎞が7㎞になったり、その週は走るのを止めたりもしている。自分の決めたことを守らないというのは、いくら美言を弄しても、それで他人を納得させることはできても自分自身を心底から納得させることはできない。そして、いつも悔やむのだ。「今日も10㎞を走らなかった」と。

そうした妥協の積み重ねに慣れていると、ビジネスを継続するかどうかという決定的な場面での弱さにもつながるのだと思う。

普段の生活が訓練

それを「自己愛」と呼べば良いのかどうか分からないが、あの西郷隆盛も己に打ち克つことの大切さ、さらに自己愛を克服できるものこそが大事を為すことができると説いた。西郷は、多くの人が事を為す時、10のうち7か8までは達成できても最後の2か3を成し遂げられないのがほとんどなのは、この自己愛のせいなのだという。

企業の経営は最初の10年だけが問題なのではない。かつては30年といわれた企業の寿命が最近は短命化しているといわれる。事業の継続性が問われるのは起業したての企業ばかりの問題ではなくなっている。

自己愛との絡みでいうと、起業仕立ての頃は謙虚、素直に物事に当たり、事業に専心して事業が成功し、名声も得られても、いつの間にか自己愛が強くなり、こころにおごりが生じ、自己中心的になって事業に失敗するといった類の話はよく聞く。

いつも自己満足に終わるのではなく、おごらず仕事に専心し続け、普段の生活から自分に打ち克つ訓練を続けることが大切なのだろう。何人もの経営者が鍛錬の大切さを説いているのもそのためだ。一朝一夕で身につくものでもなく、毎日が終わることのない訓練なのだと覚悟をしておかなければならない。

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